第390話 繰り返しの妙味
     これまで何度か鰹節のお話を書いてきました。鰹節を発酵食品だとご紹介したのは枯れ節の製造工程にカビを生やしてうま味を引き出す“カビ付け”という工程があるからです。荒節にカツオブシカビを接種して、温度と湿度がちょうどカビが生えるのに適した状態に調節した部屋に置いておくと、やがて周りがびっしりとカビに覆われます。このカビを一番カビといい、この状態の節を天日乾燥してからブラシがけしてカビを払い落とします。その後日陰で風干してから、またカビ室に入れます。やがて節はカビに覆われます。これが二番カビです。以下、天日乾燥、カビ落とし、日陰干しを繰り返します。3番カビ以降はカビ室に入れなくても自然にカビが出てくるので、それを待ちます。カビ付けは最高で6番カビまで行います。このカビ付けの繰り返しが奥深い味を生むのです。鰹節(枯れ節)の製造には4〜6ヶ月かかりますが、それはこのカビ付けによるところが大です。
    <食品雑記帳indexへ>

    第389話 驚異のくさやパワー
     前回ご紹介したとおり、くさやの風味を決定づけるのがくさや汁で、100年以上受け継がれたくさや汁が現役で使用されています。一度使用したくさや汁はしばらく休ませ、長期使用しない場合は魚の切り身を投入して、微生物のバランスを維持しています。むかしから、くさや汁は生きていることを見抜き、飢えさせないよう、疲れさせぬよう管理してきた先人の洞察力と愛情には脱帽です。さて、くさや汁には様々な微生物が棲んでいますが、くさやの誇る保存性のよさはこの微生物たちに負うところ大です。中でもくさや汁に生息するある種の細菌(コリネバクテリウムの一種)は、抗生物質を生産します。くさやは日持ちがよく、加えて昔から傷口にくさや汁をつけると化膿せずに治りが早いといわれているそうですが、近年になって理由が科学の視点で明らかになったわけです。さらに、微生物たちは保存性を高めるだけではなく、独特の香りも作りだしています。まさに、くさやは微生物のたまものなのです。
    <食品雑記帳indexへ>

    第388話 空を見ながら作る食品
     空を見ながら作る食品なんて・・・。一瞬そう思う方も多いでしょう。実は鰹節と干し貝柱がそうです。どちらも天日干しの工程がありますが、雨など降ろうものなら大変です。単に仕上がりが遅くなるとか、濡れたら乾かせばいいとかいう問題ではないのです。実は天日干しの間に少しでも水が付くと、その部分が白く変色してしまい、売り物にならなくなってしまうのです。ですから、天日干しの間は空とずっとにらめっこの状態が続くのです。
    <食品雑記帳indexへ>

    第387話 くさやの物語
     日本で一番臭い食品はくさやといわれます。賃貸住宅やマンションでは“くさやを焼くべからず”と誓約させるところもあるとか。でも、この“くさや”は食べるとものすごくおいしいのだとか。くさやは魚を発酵液(くさや汁)に浸けた後、乾燥させた魚の干物 で、八丈島、新島、式根島、大島など伊豆諸島でつくられる伝統的な水産発酵食品です。でもこのくさやは作ろうと思って作った食べ物ではなく、やむ終えず出来た食べ物なのです。昔、伊豆諸島産の塩は幕府へ上納されていました。その為、塩は貴重品で、島民でも自由に使用することは許されず、魚の塩漬けといえども例外ではありませんでした。ですから、塩漬けに使った塩水は、仕方なく捨てずに繰り返し使用していました。年月を経て、その塩水がくさやの製造に欠かせないくさや汁となったのです。
    <食品雑記帳indexへ>

    第386話 修繕が必要な食品
     壊れ物を直すことを修繕といいますが、製造工程で修繕が必要な食べ物があるってご存じですか?それは鰹節です。鰹節の原料の鰹はいったん煮た後、薫製(焙乾)にかけて水分をとばすと同時にうま味を封じ込めます。この薫製した状態を荒節(または鬼節)といいます。燻煙で表面がザラザラとしていることに由来します。荒節はそのまま出荷することもあります。さて、荒節にカビ付けを行う前に荒節の表面のタールや脂肪を削って裸節(赤むき、赤はぎ)と呼ばれる状態にします。さらにカツオブシカビをはやして(カビ付け)、水分をとばしたものを枯節といいます。
     さて、焙乾が終わったものを生利節といいますが、身が割れたりや欠けたりしたものは補修しなければいけません。身が欠けたり、傷があるままだと、後の工程で乾燥が進むにつれて、身割れがひどくなったり、欠けた部分が拡大したりするからです。この補修工程のことを修繕といいます。中落ちや頭についた肉を煮ておいて、それと生肉を混ぜたペーストで、身割れや欠けた部分を埋めていきます。上から水で湿らせた和紙を張っておくと傷がしっかりふさがれます。
    <食品雑記帳indexへ>

    第385話 決して漏らさぬ煮汁の一滴?
     無駄を省け!というのが産業の鉄則ですが、水産加工の世界でも同じことが言えます。例えば鰹節を作る時に鰹を煮た煮汁も利用されてきました。かつては煮汁を煎じた鰹煎汁(いろり)が調味料として使われ、現在も煎汁(せんじ)あるいはエキスと呼ばれ使われているとか。それだけではありません。鰹節を作る際に出る内臓などの残滓の量は相当なものです。かつては酒盗(はらわたの塩辛)にされるくらいでしたが、今や魚醤の原料として注目され既に大手調味料メーカーなどが製品化しています。煮汁の話に戻りますが、煮汁を利用するのは鰹だけではありません。北海道などはホタテの一大生産地ですが、ホタテの干し貝柱を作る時にホタテガイを釜ゆでします。この時の煮汁(煮熟汁)は調味料・エキス原料として使われています。
    <食品雑記帳indexへ>

    第384話 オス・メス・カメ????
     オス・メス・カメって一体なんだろう???そうお思いの方は多いでしょう。実はこれ鰹節のことなんです。鰹を3枚に卸した半身二枚を鰹節に加工したものを亀節といいます。亀節の名のいわれは見た目が亀の甲羅に似ているからです。亀節は小さめの鰹から作ります。一方、大きめのカツオは半身を血合いを境に背側と腹側に分けます。鰹1本から背側2本と腹側2本が取れます。さてこの場合、背側で作った鰹節を背節、腹側で作ったものを腹節といいます。実は背節、腹節には別名があって、それぞれ雄節、雌節と呼ばれます。
    <食品雑記帳indexへ>

    第383話 脂がのったら大迷惑?
     寿司屋でトロを注文したり、魚屋で魚を選ぶ時には脂がのっているとおいしそうだと思いますよね。ところが、魚の加工品には脂がのっていると都合が悪い物があるのです。1つは鰹節です。鰹節の原料には脂が多いものは不向きで、脂が多いと油節と呼ばれる味も香りも乏しい上に、だしをとっても濁ったものになってしまいます。だからといって脂が少なすぎてもうま味が少なくなってしまいます。もう一つ脂が多いと向かないのは魚醤です。魚醤は塩分が高いため、発酵に時間がかかります。ですから、脂が多すぎると脂が酸化して油焼け臭が生じてしまう危険性があります。
    <食品雑記帳indexへ>

    第382話 カツオブシカビの知られざるパワー
     鰹節が発酵食品だということは以前にご紹介しました。その発酵を支えているのがカツオブシカビです。カツオブシカビは長年の研究と品種改良によって選りすぐりの菌が使われています。カツオブシカビの働きはいろいろあります。最近ではあまり見かけませんが、かつおぶしはとても硬いもので鰹節同士をたたき合わせると、カンカンと音がするくらいです。昔は家に鰹節削り器があって鰹節を削って削り節を作るのが子供のお手伝いの一つでした。私も子供の頃よくやったものです。さて、カンカンと音がするのは鰹節の水分が12〜15%ととても少ないためです。水分を減らすのにカツオブシカビが一役買っています。カツオブシカビは鰹節の水分を減らすだけでなく、中心から水分を吸い上げて水分を均一にしていきます。魚といえば魚臭さが問題になりますが、鰹節には魚臭さがあまり無いですね。それはカツオブシカビが鰹の脂肪分を分解して、脂肪が酸化して出る魚臭を抑えると同時に、脂肪分解物から旨味を生じると同時にアクを減らします。さらにだしといえば透明さが命ですが、中性脂肪はだしに濁りを与える厄介者です。その中性脂肪をカツオブシカビが分解してくれるのです。そして、あの鰹節特有の香りを生み出しているのもカツオブシカビです。鰹節のうま味はイノシン酸が主体ですが、アミノ酸も重要なうま味成分です。鰹のタンパク質を分解して、アミノ酸を生み出しているのもカツオブシカビなのです。和食はだしの文化といわれますが、それを支えているのは目に見えないカツオブシカビなのです。
    <食品雑記帳indexへ>

    第381話 奥深いキムチの世界
     韓国といって真っ先に思い出す食べ物は焼き肉とキムチという方が多いことと思います。実際、キムチは韓国の国民食とも言える食べ物です。韓国風お好み焼きであるチヂミの中にはキムチチヂミもあり、鍋物であるチゲにもキムチチゲがあり、直接食べるほかに味付けなどにも使われています。実は韓国は国としてもキムチにはこだわりを持っていて、大韓民国農林部に公式のキムチの定義が存在するくらいです。その定義とは "キムチとは、塩漬けされた主原料(白菜など)に、薬味類(唐辛子など)を混合、低温で発酵した食品である。"というものです。キムチには発酵食品特有のうまみがたっぷりあるのですが、そのうまみは塩辛に負うところが多いといわれます。その塩辛の中でも多くのキムチに使われているのがオキアミの塩辛です。韓国民族村や民族博物館にはキムチの紹介コーナーはあり、ソウルにはキムチ博物館があります。そこで異口同音に語られているのがキムチのバリエーションの多さです。素材の違い、漬け込みや発酵条件の差などで実に様々なバリエーションがあり、さらに地域によってもバリエーションがあることから、その数は200種類近いといわれています。
    <食品雑記帳indexへ>