第190話 食べ物をめぐる大騒動?
     昭和の初めの頃は、まだハムという食べ物が一般的ではありませんでした。その頃、鎌倉にあったあるハム屋さんが、東京銀座に店を開いたときです。”鎌倉ハムの切り売り、大安売り”という宣伝ビラをまきました。このころハムは骨付きハムしかなく、ハムという食品があまり知られていない頃ですから、広告自体が誤解されてしまいました。なんと、”鎌倉公を切り売りするとはなんたることか。大安売りとは何事だ。”とある主の筋から猛反発を食らって、商売にならなかったとか。わかりますか?この意味。わからない方は、”鎌倉ハム”を、縦書きで書いてみてください。ちなみに鎌倉公は、源頼朝のことです。
     大騒動とはいかないまでも、目新しい食べ物でちょっとした混乱を起こした例が他にもあります。今や国民的人気食のカレーですが、今日のように手軽にカレーが作れるようになったのは固形カレールーなど即席カレーが開発されたおかげです。そんな固形カレーの一つに昭和25年にキンケイ食品工業が“キンケイミルクカレー”がありました。栄養が不足していた当時、ミルク入りということで厚生省(現・厚生労働省)の栄養強化食品にも指定された優れもので、味もよかったとか。このカレーはカレーを木枠に流し込んで硬め、銀紙でくるんだものが20個入りで缶に詰められて売られていたとか。形も重さも石けんそっくりだったので、間違って選択に使ってしまった主婦もいたとか。
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    第189話 茶碗蒸しは奥が深い!
     なかなかうまくできない料理に、茶碗蒸しがあります。固まらなかったり硬すぎたり、すが立ったり・・・。どうすればうまくできるんでしょうか。そんな奥が深い茶碗蒸しについて考えてみましょう。
    1.茶碗蒸しをうまく固めるこつ
     まず茶碗蒸しが固まるというのは、どういうことか考えてみましょう。茶碗蒸しが固まるのは、卵のタンパク質が熱で固まる(熱変性する)ことなのです。ただ茶碗蒸しの場合、だし汁を卵のタンパク質が抱き込んで全体が一つとなって、しかもなめらかに固まることが要求されるのです。ここで重要となるのがだし汁と卵の比率です。だし汁が多いと固まらなかったり、固まっても柔らかすぎて崩れやすくなります。逆にだし汁が少ないと、固まる温度が低下するとともに、固まったときに硬くなり過ぎてなめらかさが無くなります。ちょうどいい比率は、だし汁に対して卵が20〜25%(卵1個を50gとして、だし汁が150〜200g)とされています。あと加熱が足りなくても、多すぎてもいけません。蒸し時間は15〜20分程度とし、内部が80℃程度になったらおろすと、ちょうどよいとされます。
    2.茶碗蒸しのす立ちを防ぐ
     茶碗蒸しを作るとすがはいるという場合は、加熱温度が高すぎることがほとんどです。まず、すが立つメカニズムをみてみましょう。茶碗蒸しをいきなり100℃前後の蒸気で蒸すと、卵のタンパク質が急激に固まります。一方、茶碗蒸しの中の水分は水蒸気になって、蒸発しようと卵の中で泡を作ります。泡が固まりかけた卵で行き場を失って、そのまま固まってしまって、すが立つというわけです。卵のタンパク質は60℃を超えれば固まりはじめますから、80℃以下からゆっくりと温度を上げ、蒸気の温度は90℃以下にとどめるとよいといわれています。よく蒸し器のふたをずらしたり、火加減をごく弱くするのは、蒸す温度をコントロールするためなんです。ちなみに、カスタードプリンのすが入る現象も同様の理由によります。カスタードプリンの場合は、プリンを並べるバットの底には必ず折り畳んだ布巾を引いて、器の半分から3分の2程度のお湯を満たした状態で加熱します。これはオーブンによる熱のあたりを和らげるための工夫です。何事も火加減、さじ加減は難しいものですね。
    3.マイタケを茶碗蒸しに入れるには
     最後に、意外に知られていないこつを一つ。茶碗蒸しにマイタケを入れるときには、あらかじめマイタケを湯通ししないと茶碗蒸しが固まらなくなります。シイタケなど他のキノコではこうしたことは起きません。実はマイタケにはタンパク質分解酵素があり、生のマイタケを茶碗蒸しに入れると、卵のタンパク質が分解されるので、茶碗蒸しが固まらなくなるのです。マイタケを入れる場合は、沸騰水で30秒程湯通しするとタンパク質分解酵素の働きが十分無くなるそうです。タンパク質分解酵素は他のキノコも持っていますが、マイタケの物とは種類が違うので、茶碗蒸しを作る場合に湯通しなどしなくても大丈夫です。マイタケは栃木県で栽培法法が確立されるまでは見つけるのが難しく、幻のキノコといわれていたとか。そんな幻のキノコを見つけると、思わず待ってしまうほど喜んだので、マイタケ(舞茸)の名が付いたのです。幻のキノコで茶碗蒸しを幻に終わらせないように御用心!
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    第188話 食品にも円熟の味?
     いい役者さんは、年を追う毎に演技に円熟味を加えると言います。実は食品の世界にも熟成(エージング)と呼ばれている工程が多々あります。人も食べ物も熟成が肝心なんでしょうか。そんな食品の熟成について、いくつかご紹介しましょう。
    1.アイスクリームのエージング
     アイスクリームの製造工程にもエージングがあります。アイスミックスを加熱後均質化(脂肪の組織を細かく分散させる工程)の後、3℃前後に6〜24時間置いておきます。すると脂肪の粒が硬さを増して、ミックスの粘度が高まります。このことでアイスフリーザーにかけたときに空気が抱き込まれ易くなって口当たりと味がよくなります。
    2.食肉のエージング
     ”肉は腐る前が旨い。屠殺直後はまずい。”という話を聞きますよね。魚はとれたての状態が最も旨いのに、肉は熟成(エージング)させた方が旨いのはなぜでしょう。実はそれには死後硬直という現象がかかわってきます。死後硬直とは生き物が死んでいって維持感が経つと関節が曲がらないほど筋肉が硬くなる現象です。死後硬直している肉は硬くてまずいのです。死後硬直はある程度の時間続くと、硬くなった筋肉が緩んできます。これが解硬と呼ばれる現象で、この後で肉に熟成によるうま味が付いてきます。
    3.小麦粉のエージング熟成
     製粉会社では製粉した小麦粉を1〜2カ月間、タンクの中で寝かせます。この操作が小麦粉の熟成(エージング)です。エージングは、製粉会社のタンクの中だけでなく、袋詰めされて出荷されたあとも続きます。関係者の間では、エージング期間が短い粉を若い粉、長い粉を枯れた粉ということもあるそうな。パンを作る場合に、若い粉は吸水率が低いためパン生地にするとべたつき、枯れた粉は吸水率が高いためパン生地にすると生地が締まって乾燥気味になる傾向があるとか。パンづくりではエージング期間が短い入荷直後の新麦が問題にされることがあります。新麦の小麦粉は、中に含まれる水分量が多く、さほど酸化していません。すると、パン生地中のグルテンの酸化度も低くなり、生地がだれたり、べたついた状況になります。古麦になるとエージング期間が長いため、水分が蒸発して乾燥した粉となっており、酸化もかなり進んでいるます。そのため、パン生地中のグルテンの酸化度も高くなり、パン生地が引き締まり、乾き気味になります。グルテンは酸化すると、グルテン組織が強化され弾力が出るのです。米に関しては、新米のほうがおいしいとされていますが、小麦粉は新麦のほうがパンに適するとは限らないのです。
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    第187話 微生物で食品が変色?
     微生物には以前に紹介したセラチアやシュードモナス(第92話へ)のように色素を作ったり、食品中の成分に化学変化を起こさせて着色や変色を起こすものがいます。
    黄色系  ミクロコッカス、スタフィロコッカス  肉,肉製品,魚肉貯蔵中
           シュードモナス            魚肉貯蔵中,牛乳の黄変
           バチルス めん顆,バレイショ
    褐色系  バチルス・サブチルス変異株アテリムス 生めんなど(灰褐色)
           バチルス・サブチルス変異株ニゲル 褐色化牛乳、ソフトチーズ
    赤〜ピンク系  
          サルシナ 魚肉,塩蔵魚
          バチルス・コアギュランス 魚肉ソーセージの赤色斑点、魚肉
          バチルス・フィムズ
          バチルス・レンタス
          ミクロコッカス・ロゼウス 魚肉,赤変牛乳
    緑色系 ラクトバチルス,ロイコノストック ソーセージ,生肉
    緑青色 クロモバクテリウム・リビダム貯蔵肉(黒褐色にもなる)
    黒色系 プロテウス,エロモナス         ピクルス,チーズ熟成中
          バクテリウム・プロテオリティ      かん詰
          クロストリジュウム・ニグリフィカンス
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    第186話 イカをあぶると丸くなるのはなぜ?
     イカを焼くと丸くなりますね。なぜかわかりますか。イカの皮は、実は4層構造になっています。私たちが皮をむいたと思っていても、むけているのは1層目か2層目までで、3層目以下は残ります。4層目は熱をかけると、激しく身体の軸の方向に収縮します。イカのもう一つの性質に、筋肉の繊維方向が一定であることがあります。イカの刺身を作るとき、体軸に直角に切ると歯ごたえが保てますが、体軸に平行に切ると歯ごたえが失われます。それは、イカの筋肉繊維が体軸に平行な方向だからなのです。
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    第185話 おならを科学する
     人付き合いをする上で嫌われるものに、おならがあります。おならって、どうして出るんだろう?と疑問に思ったことありませんか?病的にものすごい量のおならが出ることがあるそうですが、今回は健康な人の場合を御紹介します。おならは飲み込んだ空気によるものと、体内の代謝反応で出る二酸化炭素によるものもありますが、要な原因は腸内細菌です。腸内細菌にはメタンや水素を作るものもいますが、インドールやスカトールなど臭い気体を作っているものもいます。腸内細菌の数から逆算すれば、一人1日あたり24リットルの水素と6リットルのメタンが生じているはずだそうな。でも、じっさいの平均的なおならの量は一人あたり一日約1リットルだそうで、残りの大部分は他の腸内細菌によって、水素やメタンから揮発しない物質に変換されているそう。でも、おならには医学上危険なことがあります。かつて、おならに火がつくかという話が盛り上がったことがありますが、これが危ないことがあるのです。おならは多くの場合、水素を4〜47%、メタンを5〜13%含むとか。この組成は爆発可能だそうで、大腸の手術の際に稀に電気メスから引火することがあるとか。さらにおならの元にならないように、作物の中に含まれる糖の種類を変える品種改良も行われているとか。おなら一つとはいえ侮れないものです。
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    第184話 バッテラが甘いのはなぜ?
     バッテラのような押し寿司を食べたとき、握り寿司より甘いと感じたことはありませんか?押し寿司は箱形の木枠に入れて、ぎゅっと押して作ります。使う寿司飯は冷えたものを使うので、米が硬くならないように砂糖を多めに入れます。砂糖は水分を保つ作用があるので、米が硬くなるのが防止できるのです。余談ですが、保水力といえば砂漠に生える復活草という植物が、水を保っていられる理由の一つに、トレハロースという糖分の存在があります。トレハロースは保水性の高い糖で、女性用化粧品にも使用されているほどです。この保水性が注目され、現在様々な食品に使われています。トレハロースは甘みが砂糖の半分程度で、甘みの質も砂糖に近く良質だといわれています。しかも苦みや渋みを和らげ、塩味を強調するというおもしろい性質があります。寿司飯に砂糖とトレハロースを併用すると、よりいっそう硬くなりにくいとか。
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    第183話 キムチやタイ料理で汗が出るのは?
     キムチやタイ料理など、唐辛子がたくさん入った料理を食べると、汗が出ますよね。唐辛子には、カプサイシンという辛み成分が入っていることは、以前(第124話へ)御紹介しました。このカプサイシンが、皮膚にある暑さを感じる温点と、脳の中にある体温の上昇を感じる神経(温感受性ニューロン)を刺激するんです。すると、体温が上がったと勘違いして、汗を出して体温を下げようと体が反応するんです。ところが、あまり辛いものを食べていると刺激になれてしまい、この反応が鈍くなってしまうんです。辛いものを食べ慣れた韓国やタイの人たちを見れば、わかりますよね。でも、いきなり辛いものを食べてはダメ。ひどく下痢をします。それに、韓国の唐辛子と日本の唐辛子では、辛み成分の量が違います。かくいう私も、学生時代に一度失敗例があります。ところで、このカプサイシンをおもしろい用途に使っているものがあります。熊撃退スプレーです。どのくらい強力かというと、こんな実話があります。私は釣りを趣味にしていますが、たまに行く札幌の大手釣具店での話。ワゴンに置いてあった熊撃退スプレーを試供品のつもりで、プシューとやったからさあ大変。そのフロアは、1時間程度使えなくなってしまったんだそうな。ところで、カプサイシンが痴漢撃退スプレーにも入っているという話もありますが、本当ですかね?
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    第182話 作りたてがまずい食品?
     何でも作りたてがおいしいように思ってしまうのが食品のイメージ。ところが、現実は必ずしもそうではないことが有るんです。以前、私がある乳業メーカーの工場を訪ねた時に、”牛乳はパックしてから3日目が、脂肪が牛乳の中で安定しておいしいんだ。”という話をうかがって驚いたことがあります。これよりも、もっと典型的なのは缶詰でしょう。材料と調味料などを缶に入れて加熱するので、出来上がり直後は十分味が馴染んでいないことがあります。ツナ缶は一年位すると、油がよく馴染んでくるとか(製造後5年目くらいまでがおいしい)。魚介類の缶詰は、製造後1年から5年がおいしいそうな。果物の缶詰は半年から4年、野菜水煮の缶詰は、半年から3年くらいがおいしいというのですから、缶詰の食べ頃には気をつけましょう。
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    第181話 塩のなぜ?を科学する
    1.食卓塩とコメの不思議な関係
     食卓塩に米が入っているのをみたことがありませんか?私も初めて見た時には、米を入れると塩の味が良くなるのかな?などと思ったものです。ところが、これにはしっかりした理由があります。最近の塩は生成度合いが高く、ほぼ純粋な塩化ナトリウムですが、それでも若干の塩化マグネシウム(にがりの主成分)や硫酸ナトリウムなどの不純物が含まれます。これらの不純物は、吸湿性が激しい特徴があります。それで塩を長くおくと、とべたついて固まってくるのです。粗塩(並塩や漬け物塩の俗称)や天然塩は、不純物の割合が高いのでべたついた感じになっているのです。粗塩や天然塩を焼いて焼き塩にするとさらさらするのは、にがりが酸化されて吸湿性の少ない酸化マグネシウムになるからです。食卓塩が吸湿性があっては困るので、純粋な食塩に塩基性炭酸マグネシウムをまぶして、空気との接触をさけています。食卓塩に炒り米を入れておくのは、米に食塩の水分をすわせてさらさらの状態を保つためなのです。
    2.迎え塩の科学
     大量の塩で塩蔵されたサケや鱈の塩抜き(塩出し)は、どのようにされていますか?理論上は真水で戻せばいいのですが、実際は1.0〜1.5%の食塩水で戻すこともあります。これを迎え塩、または呼び塩といいます。塩が入ると塩抜きが遅くなりそうな気がしますが、1%までは真水と変わらず、5%以上で初めて塩の抜け方が遅くなると言う報告があります。これで、迎え塩をしても真水に比べて、あまり遅くない速度で塩抜きできることがおわかりでしょう。では、なぜ迎え塩が必要かというと、真水で塩抜きすると塩とともにうまみが抜けてしまい、魚の表面が水っぽくなってしまうかわりに中の塩は抜けなくなってしまいます。しかも、塩蔵に使われる塩には塩化マグネシウムや塩化カルシウムなどの不純物があり、これらは苦味があるとともに食塩よりもとけ出しが遅いのです。真水で塩抜きすると、塩化マグネシウムや塩化カルシウムによる苦味が際だって残ってしまいます。迎え塩はうまみを残しつつ、余計な塩味と苦味を除いてくれる先人の偉大な知恵なのです。
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