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さて、特許庁に不服審判請求をしてから半年ほど経った頃、特許庁から突如書類が届きました。拒絶査定が覆ったのか、それとも覆らなかったのか。どきどきして書類を見ると、なんと審判請求書の補正指令でした。一体なんだろうと思っていると、その箇所は審判請求書を書いていた当初から気になっていた箇所でした(第17話参照)。“請求の趣旨”の記載がないので書くようにとの指令でした。そこで、あやふやな状態ではまずいので特許庁に電話して訊いてみることにしました。私なりに持っているイメージをお話ししてみたところ、“文例集ありますか?”と訊かれました。当然無いので、“ありません”と答えると、“弁理士の方ではないんですか?”と訊かれました。“自分が弁理士ではなく個人で作業を進めていることをお話しすると、驚かれた様子でした。個人で不服審判請求まで手がける人はあまりいないのだそうです。その後、書き方について文例をfaxで送っていただきました。実は、この“請求の趣旨”は特許庁にどうして欲しいのか(=拒絶査定を取り消して、特許査定して欲しい)を書く欄でほぼ決まった文があるのだそうです。“原査定を取り消す。本願は特許すべきものである、との審決を求める。”と書くとよいとのことでした。ちなみに、原査定とは拒絶査定のことです。直ちに手続補正を行いました。そして、手続補正から1年10ヶ月後、拒絶査定が取り消され、特許権を取得することができました。このときの喜びはとても大きく、各種手続きを一通り経験できたことの充実感も同時に味わうことができました。 手続きの経緯に続く、拒絶査定の要点は特許庁から送られてきた拒絶査定をよく読んだ上で、なぜ特許庁側が特許性がないと判断したのか、その理由を要約して書きます。ポイントがいくつかある場合は箇条書きにした方がよいでしょう。自分で要点を整理する上でも有効ですし、特許庁の審査官が読んでも読みやすい書類づくりをしたいものです。本願発明が特許されるべき理由は、拒絶査定を受けた発明を特許とするに値するものだと主張するところです。ここは不服審判請求の心臓部に当たるので、慎重かつ精緻にでもすっきりと書かなければなりません。実際に私がどうだったかは別にして、以下の工夫をしてみました。“@本願発明の説明”として、拒絶査定を受けた発明の内容とその効果を簡潔に書きました。続いて“A補正の根拠の明示”として、今回の不服審判請求と同時に手続き補正をを小なうこととした理由について要点を簡潔に書きました。さらに“B引用発明の説明”として、拒絶理由通知や拒絶通知で引用されている引用例の個々について要点を簡潔にまとめました。最後に“C本願発明と引用発明の対比”として、拒絶理由通知や拒絶通知で引用されている引用例と拒絶された発明を比較していきました。ここで新たに工夫をしてみました。まず、特許庁側の引用例一つ一つと本願発明を比較して差を明らかにするとともに、引用例すべてを単に組み合わせても本願発明で得られる効果が得られないことを説明したのです。次に、引用例と本願発明の差をはっきりさせるために表を作りました。文章以外に表にすることで、より直接的な理解を得ようとの作戦です。“むすび”ではこれまで述べてきた理由から、“本願発明は当業者が容易に想起しうるものではない。よって、原査定を取り消す、この出願の発明はこれを特許すべきものとする、との審決を求める。”と記載しました。証拠方法、提出物件の目録、包括委任状番号などの書き方は拒絶理由通知に対する意見書と同様です。 このようにして頑張って作り上げた不服審判請求書を特許庁に提出したのです。 前回に引き続き、審判請求書のお話です。請求の理由の次の手続きの経緯は出願から拒絶査定に至るまで特許庁とやりとりした書類の提出日を時系列で書いていきます。例えばこんな感じです(実際のケースではなく、あくまで例です)。 出 願 平成 9年7月22日 手続補正書 (提出日) 平成 9年11月27日 名義変更 (提出日) 平成10年3月2日 手続補正書 (提出日) 平成10年7月18日 拒絶理由の通知(発送日) 平成12年1月14日 意見書 (提出日) 平成12年2月10日 手続補正書 (提出日) 平成12年2月10日 手続補正書 (提出日) 平成12年6月12日 拒絶査定 (起案日) 平成12年8月24日 同 謄本送達 (送達日) 平成12年8月26日 手続補正書 (提出日) 平成12年9月14日 この例では出願した後、特許庁から補正指令が到着して、手続補正書を平成9年11月27日に提出したことがわかります。名義変更は特許が認められた場合に権利者となる出願人の名義を変更した場合などに提出するもので、名義変更がない場合は書く必要はありません。あくまで、特許庁と実際にやりとりした書類を日付を追いながら書いていくだけです。この例ではさらに書式上の補正指令が来て、手続補正書を平成10年7月18日に提出しています。ところが、平成12年1月14日に特許庁から拒絶理由通知が届いてしまいました。これに対しては60日以内に意見書を出さなければ拒絶査定になってしまうので、内容をよく検討して手続補正書で特許の内容を補正する(通常は請求校の削減もしくは内容の縮減)と同時に意見書を平成12年2月10日に提出しています。その後提出した書類の書式に不備などがあったために特許庁より補正指令が来て、平成12年6月12日に手続き補正をしています。しかし、その主張は特許庁で認められず、拒絶査定が平成12年8月24日に特許庁内で決定され、その写し(謄本)が平成12年8月26日に発送されたわけです。さて、最後の“手続補正書 (提出日) 平成12年9月14日”とあるのは、拒絶査定と同時に手続補正をしたために、審判請求書と同時に送付したのです。したがって、ここの日付はすべて書類ができあがって、特許庁への発送日を決めてから入れました。 手続きに必要な書類は“審判請求書”といいます。 書類名(審判請求書と書きます)、提出日、あて先(特許庁長官殿と書きます)を一通り書きます。次に書く項目は“審判事件の表示”で出願番号と審判の種別(拒絶査定に対する審判事件と書きます)を書きます。その後は、発明の名称、請求項の数、審判請求人(識別番号、住所又は居所、氏名又は名称、代表者の順に書いていきます)、請求の趣旨、請求の理由、手続の経緯、拒絶査定の要点、本願発明が特許されるべき理由、むすび、証拠方法、提出物件の目録、包括委任状番号と続きます。発明の名称、請求項の数、審判請求人は特許願や意見書(拒絶理由通知に対して書く書類)の時と同様に書けばよいのですが、“請求の趣旨”、“請求の理由”、“本願発明が特許されるべき理由”の区別がいまいちよくわからなかったのです。特許の各項目の見出しは【】(デルミタ といいます)で囲んで書くことになっていて、大項目の下位に当たる項目は、一字下げて書きます。そこで、その方式に従ってみると、請求の理由が大項目に当たり、請求の理由、手続きの経緯、拒絶査定の要点、本願発明が特許されるべき理由、むすびは小項目であることが考えられました。つまり、請求の理由のすぐ後には何も書かなくてよく、それ以下の項目に詳細を書けばいいのだと考えたのです。ところがそれが大きい間違いだと後で知ることになりました(その話は次回以降に触れたいと思います)。 さて、これまでは特許出願後に拒絶理由通知が来つつも、手続補正や意見書などを提出して特許査定を受けられたケースについて実体験をもとに御紹介してきました。しかし全ての拒絶理由通知が覆るわけではありません。意見書などが通らない場合は拒絶査定が郵送されます。これは特許庁から“特許にしません”という最終決定です。私も過去に一度、拒絶査定を受けたことがあります。苦労して書いた特許もこれまでかと思うと悲しくなりましたが、私は大逆転の望みをかけ最後の手段に出ることにしました。実は“拒絶通知が発送されてから30日以内に特許庁に査定不服審判請求を行うことができる”という規定があります。これは“拒絶理由通知の内容が承伏できないので、再度審理して欲しい。”という手続きなのです。拒絶理由通知と異なるのは審査官が交代して審理が進められることです。通常ここまで手続きをするのは弁理士さんなどプロがほとんどで、私にとっても全くの未体験ゾーンでした。しかも、手持ちの特許関連の資料には手続きが存在することは書いてあっても、具体的な手続きの進め方や細かな記載例がありませんでした。さらに、不運なことにこの手続きをしたことがある人は回りに誰もいなかったのです。しかし、この手続きをしなければ特許権は獲得できないと考えたとき敢えて茨の道を行くことにしたのです。この手続きに踏み切るからにはこれまで以上に理論的に穴があってはなりません。かなりぴりぴりした状態で書類作成に臨むとともに、何度となく推敲を繰り返しました。不服審判請求の具体的な手続きと、その後の展開については次回以降に紹介していきます。 最近、“知財”とか“知的財産権”という言葉を目にすることが多くなりました。でも目新しい言葉なので、今ひとつ実感が湧かないと思います。さて、知財は知的財産権の略で、かつては“知的所有権”と呼ばれていました。知的所有権には工業所有権(特許、実用新案、意匠、商標)の他に、種苗法で保護される植物の新品種、IC(集積回路)の配線パターンを保護する回路配置権、書籍や音楽に適用される著作権が含まれます。 さらに、新しい言葉に“産業財産権”というのがありますが、これは工業所有権と同じ意味です。 最近、一村一品の関係や企業化を目指すグループから、特許権や実用新案、商標権などについてきかれることがあります。工業所有権の取得や既存権益に抵触しないように気を付けようという動きは、とてもいいことだと思います。工業所有権に対する認知度が徐々に高まってきたことを感じます。さて、工業所有権を取得する場合には、先行例の調査が欠かせないことは第6話で御紹介したとおりです。調査というととても難しく、とてもお金と時間がかかりそうに思えます。確かに私が特許と向き合いはじめたときはそうでした。しかし、インターネットが普及し、特許庁が電子化施策(工業所有権に関する情報や手続きをコンピューターで行えるようにする)をはじめたときから流れは一変しました。じつは、特許を初め工業所有権全般について、無料で、しかも詳しい情報がインターネットで得られるようになったのです。それが特許庁のホームページの中にある”特許電子図書館”(当ホームページリンク集の官公庁リンク集にもリンクがあります)です。キーワードを入力すると、情報が得られます。では、インターネットが使えなければあきらめるしかないのでしょうか?実はまだ方法があります。もし近くに、経済産業省の特許室や発明協会、知的所有権センターがあればそこで検索が可能です。例えば特許電子図書館で商標を検索すると、意外な商標が登録されていたりしてなかなか興味深いものがあります。 拒絶理由通知は送達日から2ヶ月以内に意見書(反論する意見を書く)や意見書に伴う手続補正書を提出しないと出願が無効になってしまいますが、その時私は急ぎの研究中間報告書のとりまとめのさなかで、1ヶ月全く身動きがとれませんでした。迫り来るタイムリミットに焦りといらだちを感じました。特許庁からの拒絶理由の内容は要約すると以下のようなものでした。 1.複数の過去の出願や先行事例を単に組み合わせれば、容易に達成しうる発明である。 2.先行事例がある。 3.”○○○食品およびその製法”というように同一請求項に2以上の発明が記載されている。 2.は特許法第29条の発明には新規性がなければならないという要件を満たさないというものです。これについては先行例と発明が本質的に異なり、先行事例から出願した発明を発想することが如何に困難かを従来の知見を引用しつつ意見書を書きました。 3.は特許法36条の2以上の発明を同一請求項に記載してはいけないという要件を満たさないということなので、手続き補正書を書いて補正しました。どのように補正したかというと、”およびその製法”という部分を削除したのです。方法で発明を規定するより、最終的にできた製品で規定した方がより強固に権利が設定できると考えたわけです。 1.は2.と基本的に一緒のことなのですが、出願した発明が先行事例の単なる組み合わせでは導けないことを意見書に書きました。その時に参考にした本が今は絶版になっている”拒絶理由通知との対話(稲葉慶和著、発明協会)”という図書館で借りてきた本です。この本で提唱されているクレーム対応図というものをつくて説明したのです。この場合のクレームとは請求項のことです(苦情ではありません)。先行事例と出願した特許を構成する要素に分けて書きだし、相互関係を線で結んで図示します。さらにその結果導かれる効果を書き出し、構成要素と線で結びます。そして、先行事例には見られない発明を構成する要素が存在し、その結果先行事例には挙げられていない新たな効果、もしくは効果の著しい増加が見られることを主張するのです。例えば先行事例1が要素AとBから効果Mを得るもので、先行事例2が要素BとCによって効果MとNを得るものだったとします。自分の出願した発明が要素A、B、C、D、Eからなり、その結果得られる効果がL、M、Nだったとします。そうすると、”本発明は先行事例にない要素D、Eを含むことによって、先行事例1と2の単なる組み合わせでは想起し得ない効果Lを得ることができる点に新規性がある。”と主張するのです。意見書を書くために先行事例を取り寄せて熟読すると同時に意見書に記載する意見を裏付ける文献を10ほど探して、大急ぎで、でも慎重に作業を進め、期限ぎりぎりに意見書と手続き補正書を提出することができました。 その7ヶ月後特許査定を知らせる通知が届きました。その時の感激は言葉では言い表せないものがありました。 さて職場の内部書類も整い出願の運びとなりました。それからほぼ1ヶ月後、出願番号通知書と受領書(出願審査請求書を受領し、手続きに入ったことを示す)と書かれた2枚の葉書が届きました。はじめて特許庁から書類を受け取り、ついに出願したんだなとの実感が湧きました。さて、出願日の後1年6ヶ月で出願した特許は公開されました。公開というのはそれまで第3者には、出願した内容が公にされないのですが、閲覧可能な状態で内容が公表されることです。そして出願から2年ほど経ったある日一通の書類が届きました。”拒絶理由通知”という書類です。この書類は出願した特許が権利を与えるにはふさわしくないという特許庁側の意見を書いてあるものです。出願審査請求した特許の半数近くはこの拒絶理由通知を送付されるといいます。もちろん反論するチャンスはありますが、やはりこの書類が来ると身構えるものです。しかもこの書類は送達日から2ヶ月以内に意見書(反論する意見を書く)や意見書に伴う手続補正書(これまで提出した書類を修正する)を提出しないと出願が無効になってしまうのです。このタイムリミットのおかげで私は冷や汗をかくことになったのです。 さて明細書が書き終わると、特許願と要約書を書きました。特許願は発明の名称、出願年月日、出願人(特許の出願手続きをする人間で、特許が認められた場合権利者になります)と発明者(発明をした人)の住所、氏名、提出物件の目録などから成り立っています。出願に関わる手数料を特許印紙で納める場合は、特許願の所定の位置に張り付けます。要約書は明細書に記入した発明の内容を要約して書くものです。発明が解決しようとする課題、それに対して自分の発明はどのような方法で解決するのか(解決手段)を手短に要領よく書きます。さらに、解決手段とともに参照した場合に特許の内容がより理解できる場合には、その図を選択図として指定することもできます。 さて、以前に特許を出願するための4つの書類といいましたが、正確には図面などが必要でない場合、出願は3つの書類(特許願、要約書、明細書)だけで可能です。ただし、図面や化学式が記載された書面が必要な場合は、所定の書式にした勝手必要なだけ添付します。この場合の費用は特許出願手数料と郵送料、さらに印刷した書面で提出した場合は特許電子化手数料(用紙1枚毎の料金が決まっていて、後で請求書が来ます)だけです。しかし、出願しただけでは権利にはなりません。権利化するためには特許庁の審査官によって新規性や進歩性があるかなどチェックを受けねばなりません。これを”出願審査”といいます。出願審査と特許出願は別々の手続きで、同時に行うことも出願後に日にちをおいて出願審査請求をすることもできます。ただし、特許願を提出した日(出願日)から3年以内に出願審査請求をしなければ、出願が無効になります。私の場合は出願と出願審査請求を同時にした(しなければならない事情があった)のです。それで書類が4つとなったわけです。出願審査請求には出願審査請求書という書類が必要です。出願審査請求書は請求人(出願審査請求をする人)と出願審査を受ける特許、出願審査の請求日などを記載した書類です。この場合の費用は出願審査手数料と郵送料、さらに印刷した書面で提出した場合は特許電子化手数料(用紙1枚毎の料金が決まっていて、後で請求書が来ます)だけです。出願審査手数料は基本料金に請求項の数毎の加算料金を足して計算します。出願審査に関わる手数料を特許印紙で納める場合は、手数領分の特許印紙を所定の場所に貼り付けます。 先行技術調査から書類を整え、職場の決済書類を整え、出願(特許庁長官宛に郵送)まで4ヶ月を要しました。はじめての出願は、通常の仕事の合間に作業を進めていたもので、手探り状態で長いトンネルを進むようなもので、実際の時間よりも長く感じました。上司がポイントをいろいろと教えてくれたのでどうにかこぎ着けたという感じです。 しかし、これはあくまで書類を提出したというだけで、この先に出願が特許化されるまでの序章に過ぎないことを知ることになりました。 ☆参考文献☆
工業所有権標準テキスト(発明協会)
特許出願の手引き(発明協会) |