HOBIA(北海道バイオ産業振興協会)



HOBIA例会・セミナーの記録
これまでのHOBIAの例会やセミナーの記録です。HOBIAの活動状況が見えてきます。
 第97回例会開催 講演要旨

  去る1月20日(火)に、札幌ガーデンパレスホテルで第97回例会・記念講演会が「21世紀のエネルギー・環境・食糧」と題して開催されましたので、その講演要旨の一部を以下にお知らせします。

1.「北海道:環境の世紀の戦略」
(株)エコニクス 環境技術研究所長 江本 匡 氏
【環境はビジネスになる】
非常に大きな題名を付けてしまったが、バイオ産業と環境との関係を一企業人として、バイオ産業と環境のつながりなどについてお話ししたい。当社は、海洋関係の環境についてのコンサルタントと、場合によっては生物の毒性試験やバイオアッセーなどをしている。
講演の概要をお話しすると、1)環境問題に対応することで新しいバイオビジネスが生まれる、2)環境問題が企業にとって圧力になっているのを逆手に取り、企業の競争力強化につなげ、環境指向の経営によって差別化を図る、3)環境教育を通して、これをビジネスに育てていくと言うことを提案していきたい。
アグリビジネスや食品製造業は、北海道にとって重要な産業であり、バイオの技術が生かされる。これから重要になるグリーンビジネスにおいても、バイオがキーとなる技術となる。水産業や林業も地球温暖化防止などに係わりがあるし、環境保全にもバイオ技術が必要になってくる。今までは、バイオは食料、健康、医療などと結びつきが強かったが、生活や産業の基盤となる環境にも生かされるようになると考えている。
【2つの世紀の環境問題】
21世紀の環境問題は、未だに残る公害問題と地球環境問題である。人口、食糧・水、化学物質・廃棄物、気候変動・エネルギーの4つが、地球環境問題の代表である。20世紀から積み残された問題の一つとして、自動車による大気汚染がある。低公害車も開発されているが、車の保有台数も増えており、車重の重い車が増えてきている。もう一つの問題は、水質汚濁である。BODやCODの数値は一時減ったが、ピーク時の80%で動かなくなっている。生活排水や農地からの有機物の流入、過去に水に沈んだ汚染物質が再び漏れ出すなどしている。この問題の解決には、バイオ技術が有効かも知れない。最後の改正になると言われている土壌汚染防止法は、農地以外の土壌汚染を規制することになった。土壌汚染には、産業に依るものと自然に依るものがある。この他にも、ダイオキシン問題、PCB問題、振動・騒音問題、廃棄物問題などが考えられ、それぞれに対策があるが、完全には解決されていない。
21世紀の新しい問題として、人口問題がある。国連の推計では、2050年には89億人という数字が出ている。一方、OECD諸国の総体としての人口減少が予想され、国立社会保障人口問題研究所のデーターでは日本の人口は2006年にピークとなり、2050年には1億人まで減少するという予想をしている。北海道では高齢化の問題が深刻で、2030年には北海道の3人に1人が65歳以上になる。この高齢化に対応した産業は、バイオビジネスとしても意味があるだろう。予防医学の観点から見て、サプリメントやそれを用いた保健医療が注目されることになる。北欧の学者によると、食料と水は量的にはバイオ技術などにより不足はしないが、質に問題が出る可能性がある。化学物質審査規制法により、新たな化学物質の毒性の検定が行われているが、内分泌攪乱物質などには手が付けられていない。この分野にも、バイオの技術の応用が期待される。
京都議定書で日本が約束をした排出限度は達成できないのではないかと、私は心配している。冬期間の燃料消費や車での移動距離のため、北海道では全国平均の1.3倍の二酸化炭素を排出している。全国的に見ると、工業部門では排出規制が成功しているが、その他の産業部門、例えば運送部門では大幅に増加している。温室効果ガスの目標値の達成のため、環境庁は革新的技術に期待をしており、バイオ技術や森林涵養などにより改善する可能性もある。炭素税の導入は避けられないだろうし、排出権の売買も増えて来るであろう。エネルギー問題においても、バイオマスの利用などバイオ技術が利用可能になる。京都メカニズムでは、外国と共同で排出規制やそれに役立つ技術開発をした場合、お金を出した方が排出権を得ることができることも、技術開発等の呼び水になる。
環境問題がビジネスになると言うことをまとめると、環境汚染の浄化、食糧問題の解決、食品の安全性の確保、予防医薬の開発、有機性廃棄物のバイオによる再資源化、地球温暖化対応、クリーンエネルギー開発、環境保全などの分野で有望であると言える。
【環境問題の社会化と教育】
環境に関連する企業に対する圧力では、環境基準や安全基準、法規制の強化、環境JISの制定などがある。現状の環境基準項目の中に要監視項目などがあり、より厳しくなっていくと思われる。国際基準に合わせて、基準値も厳しくなっていくだろう。法律の面では、罰則や手続の強化が図られる。一方、規制緩和の流れもあり、自主監視・基準で規制が軽減されるものも出てくると思われる。環境関連のJISも項目は増えており、注意する必要がある。マネージメントシステムとして、ISO14001取得企業等は非常に増えており、北海道内でも増えている。そのた、様々なシステムが提案されている。社会的責任投資(SRI)が評価されていて、企業の社会的責任(CSR)を重視した経営システムが評価され、早ければ2007年にはISO化されそうである。社会的評価のために環境報告書も進化していて、社会的責任等の重視の中でサスティナビティー報告書になってくるだろう。つぎに、環境税の導入は近いと見られ、バージン材料利用への課税も予想され、水利用税なども導入されることが考えられる。こうした税制の反面、環境政策に関して優良企業に対するメリットも生まれるだろう。エコ商品の利用に関しては消費者の価値観も変化していて、消費者に対するアンケートでは1割高までなら容認される。しかし、まだ高ければ売れないという傾向は強い。環境優良企業を評価するシステムはできてきているので、消費者のマインドを変える必要がある。そのためには環境教育が重要で、これ自体がビジネスとなりうる。こうしたことには、NPOなどが重要な働きをすることができる。

2.「これからの食材と食の未来を考える」
          北海道大学大学院農学研究科 園芸緑地学講座 教授 大澤勝次氏
(1)はじめに
 今日お話しすることは昨年の6月に出した「食の未来を考える」という本(岩波書店)に書いてあることが多いので、興味ある方はお読み下さい。星野道夫という写真家は、アラスカのイヌイットと暮らし素晴らしい写真と文章を残した人ですが、生きることは食べることという言葉を遺し、我々もムースも一緒であると述べている。その食べるというのはどういうことで、どう保証されているのかを考えてみたい。
(2)食糧はどのくらいあるのか
 農耕は1万年前に始まり「人類史上最大の発見」と言われる(火の発見よりも)が、同時に環境に対する負荷が始まった。現在18億トンの穀物生産があるが、9億トンがそのまま食され、9億トンが家畜の飼料となっている、現在は41億人をまかなえる量だが20億人分の食糧が不足している。牧畜をせず穀物全部をそのまま摂取すると、地球上で72億人を養うことができる。しかし、これから世界が爆発的な人口増が危惧されているにもかかわらず、農耕生産の効率にかげりが見られる。
(3)育種とは
 作物の種類は2500種類といわれるが農学大事典で扱っている作物は90種類と日本の食材はさほど多くない。日本原産は、わさび、こんにゃく、ウドくらいでその他の食材を今では日本原産であるかのように栽培し、食することができるようになった。人間の手が加わって多様性が失われたとは本当か?たとえばケールという原産種から、人間の手によってブロッコリー、カリフラワー、ハボタン、コールラビ、メキャベツ、ムラサキキャベツ、キャベツが育種された。これらの学名は同一である。今日本一のお米の生産地は北海道であるが、100年前は函館だけだった。北海道はたった100年で、お米の生産高日本一になった。ちょっと前までは美味しくないと言われていたが、きらら397、ほしのゆめなど道外のお米と遜色なくなっている。これらはすべて品種改良=育種=遺伝子改良の成果である。その品種改良という技術は、選抜育種、交雑育種、突然変異、オールドバイテク、ニューバイテクと繋がっていく。
(4)ニューバイオ
 私は葯培養、花粉培養などオールドバイテクを使った育種研究からはじめたが、目的の遺伝子だけを植物細胞に導入できるアグロバクテリウムを使った遺伝子導入技術は究極の技術である。しかし、アグロバクテリウムのプラスミドが何故宿主植物の遺伝子の中に入るのかは分かっていない。遺伝子を組み換えるというが、我々は遺伝子を組み換えたアグロバクテリアを使って後は自然の機構にまかせているだけ。従来の交雑による品種改良は、戻し交配を10回程度しないと安定しないから10年はかかる。この技術で桃太郎が作られた。遺伝子組み換えでも遺伝子導入植物の中から目的の性質を発揮するものを選ぶ。この過程はこれまでの育種と全く同じ。病気に強い遺伝子が正常に働く位置に導入されたGM植物を探し出す。これだと3〜4年で開発でき,安全性試験も入れると7〜8年くらいだろう。しかし,今はまだ日の目を見ていないのが現状である。
(5)GMOへのQ&Aに答えて
有機農法と遺伝子組み換えはいずれつながる。つながらなければ、有機農法は滅びる。環境問題を持ち出す人は、自分が環境に対して何ら負荷をかけていないと誤解している。GMOもこれまで誕生した膨大な品種と同じように、新品種の一つである。GM食物だけの問題ではない問題、すなわち生き物を扱う上で必ず出る問題については答はないが、討論会では必ずそんな質問が出て混乱させようとする。
(6)これからの食材と食の未来
 食材と食生活、流通システムの変化に対応していかなければならない。幸い食材である生物(植物、動物)への理解が分子レベルで進んだ。そのため、寒さに強い植物の知恵を借りる,海水に強い生物の知恵を借りるという夢物語が今や夢でなくなった。北海道におけるGMOの現状はまだこれからの状況だが、遺伝子組み換え米の話題が持ち上がったときに、実際に農場に行って見てみましたか?こういったものは見てみる、触ってみる、食べてみるというのが大切です。幸い冨田先生がA-HIT Bioで遺伝子組み換え大豆を使った納豆を作って売っているので食べてみることを薦めます。
 GMOの作付面積は2002年には5260万haで、日本の耕地面積の11倍、総面積の1.4倍となっている。現在ではさらに耕地面積は増えて、2002年の1.3倍以上になっているので後戻りはできない。食材と安全性をあるバランスで判断し、GMOを21世紀の共有財産としなければならない。 

3.「人類・地球の危機、2050年問題へのバイオ対応策」
奈良先端科学技術大学院大学 新名惇彦 氏

 2050年問題は2000年問題より深刻である。石油、天然ガスひいては鉱物資源の枯渇などにより、世界人口は100億に達し(最近の予想は90億)、水資源や食糧が大幅に不足する。これらの難問はいずれも20世紀の石油をふんだんに使った文明の結果である。したがって、その解決は、飽食と便利・快適な生活を謳歌している、我々先進国の国民すべての義務である。のんびりしている時間はないが、バイオテクノロジーへの期待は大きい。
【エネルギー問題】
 かなり以前から石油はあと40-50年しかない、と言われながらも、大油田の発見により、命を繋いできた。しかし、これ以上の新油田の発見はないだろうし、このままでは2050年に石油は枯渇するというのが常識である。地球上の植物が年間に固定する太陽エネルギー3.0×1021ジュールは、世界のエネルギー使用量(95%は化石エネルギー)の10倍である。植物バイオマスの10%を石油代替資源に用いたり、植物の生産性を10%上げ、それを石油代替資源にすれば、石油不要の文明が実現し、炭素の循環系も取り戻せる。ドイツではバイオエネルギー村(石油を使わない村)構想も動き出した。わが国では、1999年から遺伝子組換え技術を利用し、化石資源由来の工業原料を植物で生産させるNEDOプロジェクトが始まっている。
【水資源問題】
 水問題はもっと深刻である。最も使いやすい水は循環している河川水であるが、各地で不足している。
 黄河は断流で河口から1000km上流まで干上がる。揚子江から水を導入する計画があるが、黄河側の水位が高いので大変であろう。アラル海も干上がりつつある。チグリスユーフラテス川では、トルコが上流にたくさんのダムを作ろうとしている。このことは下流のイラクやシリアに大きな影響を与えることになる。深層の地下水を使いたいがコスト問題がネックとなる。
 世界の使用可能な河川水量は年間7兆トンあるが、2000年の水需要は6兆トンとほぼ限界にきた。2050年の水需要は30兆トンと予測されている。根拠は、人口が2倍になれば水使用量は6倍になるとの経験に基づいている。地球の水の97%は海水、河川水は0.0009%に過ぎない。海水の低コスト淡水化技術、農業用水、工業用水への利用技術の開発が急がれる。3%食塩を含む海水を潅漑用水にしようとの目的で、耐塩性植物の分子育種の研究も盛んである。メコンデルタには pH3.0でも生えている植物がある。この中からNaを排出してKを取り込む遺伝子が見つかった。分子育種による耐塩性植物の開発は水問題解決の鍵である。
【鉱物資源等の問題】
 銀、金、銅、鉛、錫、亜鉛などの鉱物資源やリン鉱石の可採年数もあと20〜50年しかない。地球上の各元素の総量は核分裂・融合しない限り一定である。重金属も高濃度で存在すれば鉱物資源であるが、拡散してしまえば環境汚染物質である。これらを低コストで回収・濃縮する技術が求められる。
広島大学(現大阪大学)の大竹久夫教授が開発された、活性汚泥からのポリリン酸の回収技術は見事である。活性汚泥を70℃で処理すればポリリン酸が溶出し、カルシウムの添加で沈殿回収し、富栄養化の元凶のリンを資源に変えることができるという。
 地下水の重金属(カドミウム、鉛、亜鉛など)を根から吸い上げ、葉の液胞に1,000倍の濃度に蓄積する植物がある。ファイトケラチン、メタロチオネインなどのシステイン残基に富むペプチドが金属をキレートし、導管を運ぶことが解ってきた。汚染地に種子を播き、数ヶ月後に植物を刈り取り、燃やせば重金属の回収と濃縮ができる省エネ型プロセスである。植物の遺伝子組換え技術により、重金属の回収効率を上昇させる研究、例えばファイトケラチンの増量も重要である。拡散した物質を濃縮するという、熱力学第3法則に逆らうにはエネルギーを要する。ポリリン酸の場合は活性汚泥のバイオマス、植物による重金属濃縮は太陽エネルギーがエネルギー源である。ひょっとしたら海水中に拡散した金銀銅などを濃縮する藻類もいるのではないか。
【食糧問題】
 耕地は84年から増加していない。異常気象の影響は乾燥、塩害、低温、高温、酸性雨、病害、虫害などに現れ、農業生産の危機が拡がっている。
 アメリカの小麦生産には大量の水を使っている。日本はアメリカの小麦を輸入しているが、この水の高い代金も払っていることになる。その点、アジアの水田は重要である。耕地面積はこれからはもう増えない。そして土地は劣化していく。では収量増の可能性はどうかというと、先進国では品種改良、大規模・集約化、化学肥料の多投入、エネルギー大量消費で収量を向上させてきたが、もう限界である。
 この問題は、遺伝子組換え技術でこそ増収可能で、救世主と言える。品種改良によって高収量、高品質、ストレス耐性植物の開発を目指すには、従来技術では間に合わない。植物の持つ最高収量能力の20%が現在の最高水準である。病気、昆虫のダメージをなくせばもっと増収は可能である。
【植物は理想のバイオリアクタ】
 植物の葉は太陽電池を備えた生産工場であり、かつ生分解性の工場である。
 20世紀は禁断の実=石油を使って急成長した。地球が3000年かけて蓄積した石油を1日で消費している。
 地球生物は太陽エネルギーに根本的に依存している。従って、太陽エネルギーを使用するバイオリアクタである植物に依存すべきである。太陽エネルギーの10%を利用すれば石油を代替できる。そうすれば、食糧生産を10%増やすことが可能である。たとえば、工業原料生産植物のゴムノキの生産能力を2倍に上げるプロジェクトなどが年間5億円の予算で、8年間プロジェクトとして進んでいる。
 以下に、代表的な研究例を示す。
・ 日立造船:ゴム成分の多い杜仲の利用
・ ブリジストン:パラゴムの木の2倍増収を目指している
・ トヨタ:サツマイモに耐病性や耐低温性を付与し、エタノールや生分解性プラスチックを生産する。東京モーターショー(2001.11)で、サツマイモ由来生分解性プラスチックをプリウスに適用して見せた
・ その他 シロイヌナズナ、ミヤコグサも研究されている
【最後に】
 ゴールドラッシュになぞらえて言えば、石油は「ブラックゴールド」であるが、未来を切り開いてくれる植物は「グリーンゴールド」、水は「ブルーゴールド」と呼んで良いのではないか。
 奈良の薬師寺は千年以上前の先人が残してくれた貴重な遺産である。現代人が30世紀=1000年後に残せるものは10倍あるだろうか。このほど成った新薬師寺は30センチ高く作ってある。200年後に縮んで同じ高さになることを考えて、今そのように作られているという。こういう観点が欲しい。

 第4回 フードフォーラム・北海道シンポジウム報告

  同シンポジウムは去る8月8日(金)、合同第一庁舎(札幌市北区北7条西2丁目)講堂で開催されました。講演者は、駒谷信幸氏(ながぬま農業協同組合 代表理事組合長)、飯塚敏彦氏(株式会社 北海道グリーンバイオ研究所 取締役研究所長)、永田忠博氏(独立行政法人 食品総合研究所 流通安全部長)の3先生で、御講演の後に先生方と会場の参加者を交えたディスカッションがありました。司会は当協会会長の冨田房男氏(放送大学北海道学習センター所長)で、非常に多くの質問・意見等が出されました。
 講演の部では、まず駒谷氏が「生産者が期待する北海道農業政策について」と題して、北海道の農家が置かれている経営や経済の状況について概括し、生産者と消費者を結びつける自身の取り組みや興味深い事例を紹介して、そうした積極的な生産者の活動を支えるための施策提言をされました。特に強調されていたことは、農地の保全と新規営農者の育成、新たな産地形成のための政策転換を求めていた点でした。また、御自身の「自分で作ったものは、自分で売る。先に売り先を決めて、作物を作る。」という確固とした経営姿勢には、農家自らの自助努力を率先して示す姿勢が見られ、非常に印象に残りました。
 飯塚氏は、「これからの北海道農業の発展に必要な研究開発について」と題し、北大で農業経済を学ぶ学生たちと共に行った道内農家収入の現状分析と、粗収入3,000万円を目指した経営例の紹介がありました。また、そうした農家に対して新しい品種等を提供するグリーンバイオ研究所の取り組みについても紹介がありました。特に興味が引かれた研究は、作物の表現形質に相応するDNAマーカーを明らかにしようとする研究で、今後の作物育種のスピードを速めるために非常に重要な試みであることが理解できました。
 永田氏の講演では、「食品の安全をめぐる国際的な動向について」と題した、非常に今日的な問題に関して、食総研の取り組みについての説明がありました。食品業界にとっては新しい概念と言えるリスク・アナリシスと、それに関わる国際的な取り決めについての最新の情報が紹介されました。同時に、最近話題となった魚に含まれるメチル化水銀や加熱食品中のアクリルアミドの問題を例に取り、リスク・コミュニケーションの重要性にも言及がありました。さらに、食総研の具体的対応として、微量成分の分析に関する取り組みや、分析データの信頼性確保に関する取り組みが紹介され、こうした活動の重要性が良く認識できました。
 会場とのディスカッションにおいては、道内の農家の経営状況に関する突っ込んだ問題提起がなされ、相当数の農家が借金漬けになっている現状や、それを打開する処方箋となり得る考え方などが示されました。また、GMOの問題も話題に上り、会場からは「難しいと思っていた話が良く理解できたと」の声がありました。また、そうした理解を深めるためのリスク・コミュニケーションに関して、リスクがゼロになることはあり得ないという基本的な世界常識が示され、会場内での共通理解が出来たようでした。極めて適切な講演者にお越しいただき、とても有意義な議論と理解共有が図られたシンポジウムだったと思いました。


 遺伝子組み換え食品に関する学習会 講演要旨

  5月19日(月)10時〜15時、北海道消費者協会主催の「遺伝子組み換え食品に関する学習会」が道立消費生活センターで開かれました。午前の部でジャーナリスト天笠啓祐氏、午後の部でHOBIA冨田房男会長が話されました。以下に、冨田HOBIA会長の講演要旨をご紹介します。

「遺伝子組み換え食品の現状について」
 私は自分の立場を遺伝子組み換え食品「推進派」とはっきりさせて、お話する。また、会場からの質問は大歓迎で、どんどん質問していただきたい。
 私の立場は正確な情報と事実を基にリスクと益とを評価し、事実をしっかりとつかんだ上でまともな議論をして自分自身の判断で選ぶというところであり、つまり「筋のよい規制をしながらGM作物を環境や市場に出すことに賛成である。それ以外は反対である」。また、北海道はバイオ産業に大きく依存している地域特性であるため、(下のグラフ:Ag-Bio上部の黄色い部分)「バイオアイランド北海道」構築、北海道の発展のためには、この遺伝子組み換え技術が是非とも必要な技術であると考える。
北海道の工業出荷額


 バイオって何?「人間は生物である、生きている…つまりバイオ」。人間も動物も植物も細菌も酵母もバイオ。生物は細胞からできており、細胞は、自分で栄養をとって殖え、生き続ける。細胞の中の遺伝物質(DNA)には、遺伝情報が蓄えられていて、細胞は、遺伝子の情報に基づきいろいろなタンパク質を作り出す。バイオの歴史は古い。チーズやワインを作ってきた「伝統的バイオ」。19世紀中ごろからは、発酵等のしくみが解明され、製品の品質改善、アミノ酸やビタミン類、抗生物質の生産までできるようになった「古典世代のバイオ」。そして現在は「組み換えバイオ」の時代。(例:糖尿病の治療に必須のインシュリンは大腸菌を利用した組み換え技術を使い、「ヒトのインシュリンと同じインシュリン」が大量生産できるようになった。医療分野での組み換え技術の利用については、特に大きな反対運動はおきていない。)
 農業におけるバイオ技術の利用だが、GM生物(遺伝的に改変された生物)は、今や日常的農産物として利用されている。病虫害に対する抵抗性を持つ麦や綿、除草剤に強い大豆や菜種等があり、このような遺伝子組み換え植物はすでに18種以上がアメリカでは許可されて市場に出ている。従来の品種改良方法と組み換え技術を使った改良との比較をしてみると、従来の方法では、10年以上の時間がかかり、「どこが変わったかよく分からないけれど、良いものができた」ということだ。これに対し、組み換え技術を使うと必要な時間が半分程度に短縮され、かつ「どこが変わったかはっきりしたもの」ができる。除草剤ラウンドアップ(グリホサート)耐性大豆を例にあげる。グリホサートは、必須アミノ酸のトリプトファン等をつくる酵素の働きを阻害するので、植物は生きることができない(ゆえに除草剤となる)。畑にグリホサートを使用すると、他の雑草は生えないが、グリホサート耐性遺伝子を組み込んだ大豆は生長することができる。グリホサートは安全な物質で、ラットを利用した経口毒性試験では、食塩より安全である。また、<グリホサート耐性>という新しい遺伝子が1つ入っていることにより発現するタンパク質(CP4 ESEP)を検査したところ、「ヒトの消化器官で速やかに分解される」「加熱でこわれる」「既知のアレルゲンと構造が似ていない」「作物中に極めて微量しか含まれない」「総タンパク質に対しても非常に微量である」という結果が出ている。安全性試験の結果からみると、体重60kgの人間が毎日119kgのグリホサート耐性大豆を食べても安全ということだ。
 組み換え食品の安全性評価については「組み換えDNA操作により新たに獲得された性質に関する資料」「遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料」など、非常に厳密な多くの試験結果が要求されていて、これらをクリアしたものでなければ、認可されていない。GM食品についての心配事をはっきりさせよう。心配なのは「製法」なのか「製品」なのか。「製法」が心配なら?食品以外の遺伝子組み換え製品―医薬品なら許せるのか。「製品」が心配なら?「遺伝子がそのまま残っている生鮮食品」なら心配ない?既存の食品にも、アレルギーを持つヒトがいる。既存の食品だから、GM食品より安全、というわけではない。「自然」だから体に良いというわけではない。有機食品は安全か?残留農薬が少ないという利点がある。しかし、虫の死骸や菌類の胞子、肥料や毒素などの汚染から考えると、リスクもある。GMと有機農法、それぞれに利点とリスクがある。
 「GM技術は新しいから長期試験が済むまで凍結せよ」という意見があるが、GM技術はそんなに新しくない。携帯電話やパソコンよりも古くからある。GM作物の長期影響は、未だ分からない。しかし、長期影響を知るには長期の野外栽培試験をするしかないので、永久に何もできないのと同じこと。25年行われてきたリスク評価では、他の技術よりも危険が少ないと分かっている。広い耕地で栽培され、大勢の人が食べたが、環境・健康面の問題は出ていない。GM食品の安全評価はむろん、きちんと行われるべき。ただ、安全評価は、非GM食品でも行われるべきであるのに、健康食品等は、GM食品ほど規制・審査を受けていない。「自然のものなら安全」という考えは間違っている。GM食品であろうとなかろうと、新製品ならリスク評価が必要であろう。
 GMだろうと非GMだろうと、遺伝子を変えて新種を造ることには変わりはない。安全評価をしなければならないのは当然であり、表示も当然である。一消費者として、安全な食品を自分自身の選択により購入し、食べたいということで、みなさんと私の考えは同じであろう。最後に、北海道には先端バイオが必要であり、生物生産などバイオ産業の振興が北海道の発展に結びつくと考える。
Q:表示については?
A:現在の日本のあいまいな表示には問題がある。きちんと表示されるべき。私は組み換え大豆を使用した食品(納豆)を近く製造・発売する予定で、「組み換え大豆」使用とはっきり表示する。より安全だと考えるので、自分でも、組み換え大豆製品を選んで食べる。


 H15年度 理事会・総会・記念講演会・懇親会開催報告

 平成15年度特定非営利活動法人北海道バイオ産業振興協会 第1回理事会・総会・記念講演会・懇親会を4月22日(火)11時30分〜18時30分、札幌ガーデンパレスホテルで開催しました。
 NPO法人化後初の総会は、107名(書面表決者含む)の参加で、盛会のうちに終了いたしました。総会では、第1号議案から第7号議案までを審議し、議案通り承認されました。みなさまのご協力に感謝申し上げます。
各議案の概要は以下の通りです。
1号議案 H14年度事業活動報告
2号議案 同決算報告、会計監査報告
3号議案 H15年度事業活動計画案
4号議案 H15年度予算案
5号議案 役員・参与選任の件
6号議案 各規定等について
7号議案 借入金限度額について

 続けて総会記念講演会が開催され、約70名の参加のもと、講師の講演ならびにパネルディスカッションが行われました。詳細は以下に示します。
また、講演会終了後は、懇親会(参加52名)を開催し、なごやかな雰囲気のもと、会員同士の情報交換や親睦を深めました。

<<総会記念講演要旨>>
「バイオベンチャーに挑む」
 (株)ファーマフーズ研究所 代表取締役 所長 金 武祚 氏
1.はじめに
 会社を設立して5年経過した。前半は研究場所の確保に奔走したが、2年半前に京都市中心街のビルを貸してもらい、根をはることができた。バイオベンチャーは場所がハンディとなる。この5年で社員も3名から25名へ、資本金も1000万円から1億数千万円となりビルも購入した。
2.会社の方針
 神経、免疫、老化の分野に研究資源を集中し、成果は食品に応用すると決めた。難しいところは、大学の先生に教えてもらえばいい。身近な食品、誰でも知っている素材を使う。
3.神経・・乳酸菌でGABA(γ-アミノ酪酸)
 キムチの中にGABAが多く入っていることに目をつけて、キムチ中からGABAを生産する菌としてLactobacillus hilgardiiを分離した。この菌を培養しGABAを生産することでGABAの値段を1/100にした(20%品 2万円/kg)。新しい機能をさがしたところ、GABAにはストレス下でもリラックス作用があることが分かった。今、いろんな食品に添加されている。
4.免疫・・卵
 最初は卵研究所と名前を付けたくらい卵に特化したバイオ研究所にしたかった。卵は生命の芽であり、サイエンスの目があればバイオカプセルとなる。ピロリ菌は胃潰瘍、胃ガンの原因菌と言われていて、40歳代の70%以上が感染しているので危険だ。このピロリ菌はウレアーゼという酵素を持っているが、このウレアーゼで鶏を免疫すると卵の黄身の中に抗ウレアーゼの免疫物質IgYができる。このIgYはピロリ菌をピンポイントで凝集し排除できる。これを卵の黄身から抽出・生産して、ヨーグルトに混ぜて月間300万本売っている。このヨーグルトを2ヶ月食べるとピロリ菌がぐんと減る。問題は卵白が余ることで、次の課題となった。
5.余った卵白から
 負のエネルギーをセーブできればエネルギー対策にもなると説明しNEDOから補助金をもらって、余った卵白の利用を研究した。卵白に入っているリゾチーム(分子量14、000)は有名な溶菌酵素だが、グラム陰性菌に効かない、アレルギーが起こる、熱で変性するということで食品に利用できなかった。最近このリゾチーム分子の1/4の大きさで活性があることが発見された。この部分だとグラム陰性菌や食品で問題のバチルス属細菌にもよく効き、熱やpHにも強く、アレルギーも起こしにくかった。現在商品開発段階まで来ている。
6.5年間つぶれなかったこつ
(1)自分たちができるフィールドを食品(神経、免疫、老化関連)に限定したこと。
(2)金融機関、ベンチャーキャピタルに出せと言われてビジネスプランを書かされたこと。
(3)マーケットを海外に定めたこと。
だと考えている。この5年間休むと会社が倒れるので、走りっぱなしだった。ベンチャーを挑むために大切なことは勇気です。ただ一つ悔やまれるのは、もっと早くベンチャーをやればよかったと思っていること。2年以内に店頭公開を目指しており、これからがもう一勝負です。

<<パネルディスカッション>>
<パネリスト>
(株)金印わさびオホーツク常務取締役  大野 吉孝氏
(有)植物育種研究所代表取締役社長  岡本 大作氏
ネイチャーテクノロジー(株)代表取締役 刈田 貴久氏
(有)A-HITBio 技術顧問          浅野 行蔵氏
ファーマフーズ研究所 代表取締役所長  金 武祚氏
<コーディネーター>
NPO法人北海道バイオ産業振興協会副会長  西村弘行

西村:最初に、各企業に自社の特徴を10分ずつ自己紹介してもらう。
大野:わさびを扱う関係で、名古屋で創業し、本州の大産地である長野で最初会社をスタートして75年になる。昭和40年頃長野での原料難に遭い、新しい原料の産地を求めて、西洋わさびの栽培地を網走に求めた。43年から網走工場で生産を開始した。反収の落ち込みなどがあり、57年にウィルスフリー苗の生産のためにバイオ技術を使うようになった。これにより、苗を提供して収穫を購入する関係が確立した。企業活動そのものが社会貢献になるように考えて、昨年10月に分社化して(株)金印わさびオホーツクとなった。
岡本:タマネギは、北海道では生産過剰のため、昨年から今年にまでに49、000tが廃棄された。こうしたことをなくすために、輸入品と差別化を目的に高機能性の品種を開発する目的で、昨年会社を興した。見た目では差別化されないために成分で差別化して、特に、高ケルセチン含有タマネギを開発している。現在流通している品種を調べると、ケルセチンの含有量には大きなバラツキがあることが分かった。品種改良には時間がかかるが、バイオの技術を使うことでスピードを上げたいと考えている。もう一つの柱は花卉である。意外に花壇に植えられている花の種類は少なく、まだまだ適当なものが見つかると考えている。現在2、000種ほどを栽培していて、北海道に適した花の育種を開始している。
刈田:眠気をスッキリさせるという製品のチラシを見てほしい。従来のアロマテラピー製品では、香りの成分をコントロールできない点が問題である。例えば、ラベンダーには鎮静効果があると言われるが、本当かどうかを調べるための臨床的な検証法が当社のコアテクノロジーである。今の会社は自分の父親が、5年前に東京でベンチャーとして当社を立ち上げ、自分は途中から経営者として会社にはいることになったが、当時は全くの経営の素人であった。
浅野:今年の2月に始めたばかり。北海道のGDPの半分がバイオ産業による。DFAVはチコリの中に僅かに含まれる成分であり、カルシウムの吸収を助けることが知られていた。チコリからイヌリンを取り出して、これを微生物変化することで収率80%以上で大量生産できるようになった。普通のフラクトオリゴ糖でもカルシウムの吸収は増えるが、DFAVではこれが劇的になる。DFAVの製造は(株)日本甜菜製糖にお願いして、販売はファンケルにお願いすることにしている。海外での販売を目指して、ヨーロッパで現地の科学者と協力してテストを始めることになった。DFAVだけでは収益性がないため、95%以上の組み換え大豆を用いたことを保証した納豆と豆腐を売ることを考えている。実際のところ、これらの製品を作っている企業は、原料として組み換え体を使用せざるを得ないので、表示の問題で困っている。そうした企業にOEM生産をお願いすることになる。
西村:自分自身もベンチャー企業を経営しており、いくつかの製品を出している。ヤーコン茶はポリフェノールを含むが、焙煎によってカフェ酸が変化して、さらに効果が高まることが分かっている。タマネギの製品をいろいろ作って、(株)グリーンズ北見と協力して仕事をしている。報道に載せることも一つの販売戦力と考えているが、皆さんの販売戦略に関してお聞きしたい。
大野:鮮度と品質が重要で、栽培の時点から製造の段階までの履歴がしっかりした、生産者の顔が見える商品を作っている。安心、安全には気を遣っている。高級品を求める購買層もあり、マーケットからの要求もバラエティーに富んでいて驚いている。
岡本:まだ小さい会社なので、マスマーケットを狙うところまで至っていない。そこで、差別化を狙って付加価値の高い商品を目指している。通常、9cmポットの製品はホームセンターなどでは50円程度で売られているが、当社では平均単価200円程度で売っていて、予約販売の方式を採用している。来年出荷が予定される今年の予約分が約80万ポットとなったが、価格戦略として無理に量を出さないようにしている。
刈田:市場戦略としては、パテントを必ず取るようにしている。香料の新たな機能性を売り物としていくために、成分を販売するか、OEMの製品を出すのか、自社販売をするのかを良く検討している。この中で、川上のマーケティングを重視しており、新たな製品を売る人たちに、その製品を良く理解をしてもらうことに努力を割いている。
浅野:ファンケルと組んだのは、オリジナルな商品がほしいという互いのニーズが合ったからである。遺伝子組み換え納豆は、インターネット販売で、冷凍品として流通させることにしている。おいしさの分析もしっかり付けて、美味しいものを食べたいと思っている人も狙っている。もちろん、健康効果も検討したいと思っている。
金:製品は、社外の5箇所の工場にお願いして、製造管理は自社でしている。研究所でKg単位の製造をした後、工場の現場に落とすことにしている。研究開発以上に、営業には別の技術があると思っている。バルクで販売しても、1Kg10、000円以上の商品を作れば収益が出て、素早い経営ができる。
西村:ベンチャーには資金繰りが難しいという問題がある。競争的な公的資金の導入についても、直ぐにお金が入るわけではない。一方では、公的資金の交付決定書でお金を貸してくれるという制度もあるようだが、皆さんは実際にどの様にしているのか?
大野:運転資金は、親会社から支援がある。農業関係と環境関係の資金を入れていて、会社が国定公園内にあるため、環境整備の資金などの補助をいただいている。食品のトレーサビリティーについても、補助をいただいている。
岡本:自己資金で運用しているので、苦労している。法人化したので、今後は理解者の支援をお願いしたいと思っている。固定資産を持つことは避けたいので、研究には大学や独立法人の施設を使い、生産には協力農家にお願いしている。
刈田:公的資金の導入については勉強中である。担保資産を持たないベンチャー企業には銀行はお金を貸してくれないので、知的所有権を担保とした借り入れの仕組み使ったり、SRIと言う環境を守る事業に対して援助をしてくれるファンドに期待している。
浅野:A-HITBioは現在自己資金が出るばかりである。公的資金には応募しているが、結果はまだである。HOBIAのコーディネート事業で、金印わさびと紀ノ國屋を結びつけることができた。今までの経験からも、良い協力者との出会いが重要であると思う。
金:公的資金の申請書は自分で書いている。ベンチャーキャピタルは4社から支援を受けている。現状維持なら良いが、大きくするには資金繰りに苦労が絶えない。第三者割り当てを増やして、早く上場まで持っていきたいと考えている。
西村:今大学発のベンチャーが増えているが、淘汰の時代が来ると思う。公的資金の審査でも、経営力の重みが大きくなっている。大きな資金の場合には管理法人を通ることが多いが、NOASTECは現状をどう見ているか、教えていただきたい。
NOASTEC財団 下館:シーズは確かに北海道に多いが、ニーズとのマッチングしたビジネスとなりうるものは必ずしも多くない。商品サイクルも短くなってきており、短期的に成果を現さないと、公的資金も使いにくくなってきている。いろいろな企業とネットワークを組んで行くことで、事業が上手く行くこともあろう。そうしたネットワークの連結点に、NOASTECがなっていきたいと考えている。

 第95回例会・新年交礼会開催報告

第95回例会・新年交礼会を平成15年1月27日、「バイオ技術の実用化と生命倫理」をテーマとして、ホテルモントレエーデルホフ札幌で開催しました。
遺伝子組み替え、クローン、ES細胞など、バイオと生命倫理をめぐる論議は、パブリックアクセプタンスとも関連して、難しい問題ですが、専門家の方々のお話を聞ける良い機会となりました。
当日は、経済産業省生物化学産業課調査員・根布朋和氏に、同省のBT戦略大綱を柱として、我が国のバイオ産業の現状についてお話頂きました。次に、北海道大学大学院文学研究科助教授・蔵田伸雄氏に、個人遺伝情報や遺伝子組み替えなどについて、バイオテクノロジーと倫理について講演頂きました。最後は、(株)科学技術文明研究所長・米本昌平氏に、諸外国との「バイオや先端医療についての比較政策論」を中心とした研究成果についてご講演頂きました。討論会では、当協会副会長の西村弘行・北海道東海大学教授をコーディネータに、会場のみなさまからの質問を交え、熱心に討論が行われました。後段で、蔵田先生と米本所長の講演要旨を掲載いたします。なお、根布調査員のご講演は次号に掲載します。
また、例会後、HOBIAの「新年交礼会」を盛大に開催しました。ご来賓として北海道経済産業局総務企画部長・奥主喜美氏、北海道総合企画部次長・石川久紀氏、(財)北海道科学技術総合振興センター副理事長・石谷捷二氏にご出席いただき、50名を超える参加者が、和やかに歓談しました。

<講演要旨>
 ちょっと長くなりますが、以下に蔵田助教授と米本所長の講演要旨を報告します。

1.「バイオテクノロジーの倫理」について語る前に
   北海道大学大学院文学研究科倫理学講座
助教授 蔵田 伸雄 氏
(1)「倫理」とは何か
 倫理とは、何をすることが正しくて、何をすることが正しくないかを決定するものである。直感的に分かることはいいが、分からないことについて考える必要がある。また、個人の価値観に還元できないこともある。バイオや生命倫理の問題は社会的影響大で、国際問題にもなり得る。しかし刑法上の法的規制に馴染まないこともある。産業界の人は倫理の話をいやがり、倫理を話題にする集会は人が集まらないと言われている。またバイオテクノロジー全般の倫理について語ることは困難なので、今回は個人遺伝情報、ヒト試料、ヒト胚の取り扱い、遺伝子組換えなどを想定してお話しする。

(2)倫理について考える前に
 遺伝子組換え食品研究は日本の企業では撤退しているが、日本の公的研究機関および米国を中心に伸びている。
 @バイオビジネスはペイするか、A遺伝子組換え食品はビジネスとして終わったのでは、BBT戦略会議の答申はうまくいくのか、CITバブルの二の舞にならないかなどといった疑問がある。開発コストを見誤ると単なるバブルで終わる可能性があり、市場の大きさを見極める必要がある。薬は効くかどうか分からなくてみんなが飲んでくれるから製薬会社が儲かる。人々が薬を選んで飲むゲノム創薬は、かえって薬の売り上げを少なくする。実は、DNAチップ、再生医療も思ったほど儲からないのではないかとも言われているし、ES細胞の実用化もかなり難しい可能性がある。倫理について議論する前にコスト分析が必要である。

(3)バイオ政策との関連で今後特に問題となると思われるテーマ
動物実験は不可欠であるが、動物愛護の問題がある。海外ではすでにさかんに問題にされている身体組織から発生する利益について多くの問題が生じる。また、遺伝情報に基づく保険差別が起こっており、今後日本でも遺伝子診断の普及が生命保険契約に影響する可能性が高くなりつつある。

(4)生命倫理における「倫理」の次元
 倫理には、国際的な「規制」と「ガイドライン」や「宣言」等があり、法、憲法解釈、指針、ガイドライン、省庁の通達、研究費の支給停止措置などさまざまな規制がある。「倫理」の次元は個人的なものではなく、「倫理」は個人の信条ではない。当然これらの規制には不備がある

(5)企業倫理という観点
 最近は、倫理は儲かりまっせと言う風潮が生まれてきた。これまで企業は倫理問題を軽視してきたが、雪印や、東京電力の例を見ると、倫理を無視することによるダメージは非常に大きい。

(6)「欠如モデル」とPAの問題
 無知な市民を専門家が啓蒙することによって、科学技術についての理解が得られて新しい技術は普及するという発想は誤り。市民は無知な存在ではなく、人々の直感は無視できないものだ。公害、薬害の過去があり、市民は「政府や企業はどうせ今回も嘘をついている」という気持ちになっている。原発も安全ですと言われ続けていたが事故がおこっているし、農水省はBSEは日本にはないと言い続けていた。 市民はリスクゼロなど求めていない。多少リスクがあっても利益が大きいなら人々はそれを受け入れる。人々が求めているのは「リスクを増やすに足りるだけの利益がある」と言う説明だ。市民にとって遺伝子組換え技術はブラックボックスであり、一般に正体の分からないものに対する人々の不安は大きい。

(7)リスクと倫理
 リスクの問題と倫理の問題を厳密に区別することはできない。「異常の原因が明らかではない」ことは「安全であること」ではない。「安全であること」と「リスクに見合う利益があること」を証明し、説明する責任は「リスクを導入する側」にある。「予測できなかった」ことで責任は回避できない。100%の安全はないが、あるリスクを「許容可能」と考えるか、「許容不可能」と考えるかは倫理の問題である。

(8)意見の集約の方法
 議論の結果を報告書として残さなければならない審議会・委員会の議論の結果を残し、インターネット上などで公開することが必要。また体外受精の実態や当事者が直面している事実は、学会も政府も把握していない。また、遺伝子組換え農作物を許すと、自国の農業が外国の大企業に牛耳られると危惧する人もいる。日本の学会は専門家集団ではなく研究者集団であり、学会の判断は「専門的職業人の判断」とはならない。
 また日本は基本的に各省庁縦割り行政で、しかも担当官がころころと変わることも困りものである。各省庁で専門家を養成してほしい。倫理対策にはお金も時間も人も必要であり、各大学の医学部倫理委員会もパンク状況だが、そのために必要な費用は、研究に費やされている費用よりは遙かに少なくてすむ。


2.「生命科学の世紀と生命倫理関連政策」
 (株)科学技術文明研究所 所長 米本 昌平 氏

【生命倫理を話すに当たって】
 1976年から三菱化成生命科学研究所の社会生命科学研究室で研究規制及び技術の企業化に向けての規制政策の分析を行ってきた。倫理問題というものは判断を個人に還元されるものであるので、社会としてはその選択の幅にどのような枠組みを嵌めるのか、規制を守らせるためにどのような強制力を持たせるのかと言うことが、研究の対象となる。私企業の立場では実証的な研究を行う必要があるので、諸外国とのバイオや先端医療についての比較政策論を中心として研究を進めてきた。1990年代に冷戦構造が完全に変化し、諸外国ではこの時期を21世紀の助走路と考えていたが、日本では冷戦構造的思考から抜けきることができなかった。
90年代中盤に大きなバラダイム転換があった。当初は、膨大な遺伝子の全てを解読することなど無理だと思われていたが、90年代中期以降に急速に解読が進んだことで、大きな展望が出てきた。こうした状況は江戸時代末期に似ており、体内的自然をそれまで御法度だった解剖学により知ることで、日本人の生命観や倫理観が変わったのと同じに感じる。遺伝子科学の進歩による倫理観を含む社会的変化の意味付けは、今後に残された課題である。

【アメリカとヨーロッパの違い】
 8年間のクリントン政権下で、アメリカの科学政策は劇的に変改した。国防省、NASA、エネルギー省などの軍事に関するものは研究費が減り、NIHの研究は2倍強に増えた。ただし、増えたといえども、NIHの研究費総額は国防研究費の半分である。アメリカの社会は税金の投入に対して説明責任があるから、産業化等の見返りを求められるが、医療分野でのバイオの成果は未だ多くはない。もう一つの重要なバイオの分野はGMFやGMOであるが、80年代の第一次バイオブームの際にその導入を本気になっていたのはアメリカのみである。そのとき日本では、化学反応を生化学反応に置き換えて、化学工業を変革しようとしていた。アメリカは、世界で最強の優位性を持つ農業分野に特化しようとした。民間企業でも、例えばモンサントなどは化学部門を全て売却して、農業分野に経営資源を傾注していた。その結果、バイオによる農産品が8割近くになるようになった。
これを、ヨーロッパに持ち込もうとしたときに、突然拒否をされることになった。1998年2月13日から20日の1週間(不思議なことに1週間)に、UKのガーディアンやBCCなどのメジャーなジャーナリズムが、アンチGMOキャンペーンを張った。これが日本に伝播し、1998年の春から農水省の審議会などがかなり影響を受けた。このことから、UKの植民地から離脱して200年、アメリカは技術応用についても別の文明となり、ヨーロッパ世界と思想的ギャップができたことが分かった。共通感情が強いと思われていたヨーロッパとアメリカの間に、農業問題の考え方に深いところから違いがある。ましてや、日本との間には違いがあるので、バイオテクノロジーの産業化に関しては今後障害となって来るだろう。EUはユーロバロメータと言う5年ごとに非常に詳細な科学技術政策に関する域内の世論調査を行っていて、組み換え技術に関して遺伝子診断などについては歓迎しているが、GMFに関しては強い警戒感があること分かった。安全性の問題ではなく、農業にバイオを利用することに対しては保守的で疑念が存在することを意識しなければ、バイオを利用した商品開発はできないと言うことである。

【生命倫理の新たな枠組み】
 今まで触れられてこなかった『生命観』を言語化する必要がある。アンケート調査での明瞭化は困難である。洞察力を使った今までとは異なったバイオ・エシクス研究のアプローチが必要だ。そこで、現在私どもは、生命倫理関連政策の立法プロセスに着目している。日本に近い文明と予想される中国、台湾、韓国の立法プロセスを分析している。今までは主としてアメリカ発の規制政策を研究してきた。方法論として、事実(Fact)対価値(Value)という2項対立を軸に研究してきた。この中にはキリスト教的世界観が含まれていて、その宗教的側面を徹底的に脱色した哲学が使われていた。ヨーロッパにおいては未だにキリスト教が強い力を持つが、アメリカにおいては異なった価値観の統合手続きとしての自由とか民主主義とかがあり、倫理に関する論理の組み立てに特殊なものがある。
20世紀型の生命倫理に対して、21世紀型の組み立てを考えねばならない。例えば、脳死の定義を1例として挙げると、不可逆的中枢神経系の停止を事実(Fact)として重視し、脳死という言葉の定義としている。1974年の国家研究法は、アメリカで作られた唯一の人体の研究利用に関する法的ガイドラインだが、日本にはこれさえもない。それまでは、科学研究に国家が介入することは全体主義的な考え方であり、拒否されてきたことであったが、人体実験に関しては被験者の人権を保護する法律が世界的に広まった。アメリカでは手術で取り出した組織や堕胎した胎児の利用に関してもこの法律を援用して、インフォームドコンセントを義務づけた。しかし、了解を取り付ければ良いのかというと、人胚の利用の可能性がこの法的スキームの限界を示してしまった。大量の人々の遺伝子情報を扱う際に、一人一人の了解を得る問題で限界が見えてきた。日本には強制参加の身分組織としての医師会が無く、学会から排除されても医師としての資格は失われない、そのため内部自治には生命倫理に関する決定を任せられない。研究費の受給に関しても、法律の遵守義務が厳しくない。従って、日本では多段階に渡って規制の網がないことになる。

【生命倫理の望まれる展開】
 ヒトゲノムは、実際に全て読まれたわけではない。精密に読まれた部分は20〜30%に過ぎないことから、これからが遺伝子解析の本番である。非常に大量の人々の遺伝子を読み、個別の遺伝的変異の意味を個々の人の表現型と比較して探る研究が必要になってくる。病歴のデータが重要な情報となるが、個々にインフォームドコンセントを取るのは現実的ではない。アイスランドで国家的に行われる研究方式は、まさにこうした研究に関してのブレークスルーとなりうる。UKでは2002年にヒトゲノム委員会を作り、アイスランドと類似した研究が行われようとしており、バックとなる社会哲学を決めた。遺伝的連帯と愛他主義(Genetic Solidarity and altruism)である。Solidarityは、近代社会において保険という仕組みを確立した際に支えとなった考え方である。これを遺伝と結びつけて、発症外診断の結果を保険の告知に結びつけることを控えさせる、言外の圧力ともなっている。我々の内なる自然を、どの様に共有の資産として解釈するのか、考え方の基準を作ることが急がれている。
 人体の個別性をアメリカでは20世紀に確立し、本人の自己決定権が確立したが、ヨーロッパでは公序良俗を上位概念として、特にフランスでは人体の人権宣言をして国家の専決事項であると考えている。ナチス体験の差かもしれないが、ヨーロッパでは憲法で個人情報の保護や生体細胞の譲渡規制を掛けている例さえある。科学者グループのピュアレビューにより研究の規制を行い、インフォームドコンセントを避けるようにしている。EUは域内レベルで規制策を設けて、所属国も域内活動をする企業もそれに従う体制ができている。科学の進歩は非常に早いので、何もしないでいると法的整備が後れを取ってしまう。EUでは個人情報指令のような枠組みを早くに決めてしまい、各国の規制を後押ししている。国境を越えた共通の価値基準が形成されつつある。新しい分野の研究を進めるためには、性格で安定した規制を作ることが必要にもかかわらず、規制緩和という美名の下の放任主義ではかえって商業化の手足を縛ることになる。日本でも、EUのような本格的な議論が必要である。

<開催報告その2>

 前号で、北海道大学大学院文学研究科助教授・蔵田伸雄氏と、(株)科学技術文明研究所・米本昌平所長の講演内容を掲載しましたので、本号では、経済産業省生物化学産業課・根布調査員の講演内容を以下に掲載します。


「わが国のバイオ政策動向
 〜バイオテクノロジー戦略を中心として〜」
経済産業省 生物化学産業課 調査員 根布 朋和氏

●BT[バイオテクノロジー]戦略会議の経緯
バイオテクノロジーの研究開発への取り組みとあわせ、研究開発の成果を円滑に産業化につなげていくことが不可欠であるとして、バイオ産業の社会基盤の形成、事業環境の整備を中心として、我が国のバイオ産業を戦略的に推進するための「BT戦略会議」が総理の下に設置(平成14年7月)され、産業界、学界、関係省が協力して総合的な検討が進められた。
BT戦略会議は第1回を7月18日に開催して以降12月までに5回開催し、以下のスケジュールにて精力的に検討された。その結果として、11月末にバイオテクノロジー戦略大綱(素案)、12月6日にバイオテクノロジー戦略大綱がとりまとめられた。
戦略大綱の総論のエピローグに、タカジアスターゼ、アドレナリン単離などで有名な高峰譲吉を登場させ、多くの事業を興し成功させた、100年前のベンチャー起業者として紹介し、我々を鼓舞している。
BT戦略会議メンバーは以下の通り。
【委 員】
新井 賢一 東京大学医科学研究所所長
伊丹 敬之 一橋大学大学院商学研究科教授
(※起草委員長)
井村 裕夫 総合科学技術会議議員
歌田 勝弘 日本バイオ産業人会議世話人代表
大石 道夫 財団法人かずさDNA研究所所長
岸本 忠三 大阪大学総長(※座長)
庄山 悦彦 (社)日本経済団体連合会
産業技術委員会委員長
杉山 達夫 理化学研究所植物科学研究センター長
寺田 雅昭 国立がんセンター名誉総長
平田 正  協和発酵工業株式会社代表取締役社長
藤山 朗  日本製薬団体連合会会長
三保谷 智子 女子栄養大学出版部
「栄養と料理」編集長
【関係閣僚】
内閣総理大臣、内閣官房長官、科学技術政策担当大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣、経済産業大臣、環境大臣

●第2次バイオブームを巡る国家間の競争
〜特許獲得競争〜
冷戦後の米国の国家目標の一つがゲノム解読競争である。日本は2000年のミレニアムプロジェクトによりやっと本腰を入れた状態で遅れを取ってしまった。これまでのバイオ技術やバイオベンチャーの動きを以下に記す。
・1980年前後〜 第1次バイオブーム
(遺伝子の時代:「タンパク質からDNAへ」)
・1973年に遺伝子組み換え技術が確立
・1976年に第1号バイオベンチャーのGenentech起業後、数百のベンチャー創立
・2000年前後〜 第2次バイオブーム(ゲノムの時代:「DNAからタンパク質へ」)
・ゲノム解読後の特許獲得競争激化
・米国NIH予算の急拡大(1998年1.5兆円→2003年3兆円)
・2000年 米国におけるバイオベンチャー株式公開急増(前年比7.5倍)
・日本においてもミレニアムプロジェクトにより予算の拡大(2000年〜)

バイオ産業における特許の重要性は極めて高く、今後さらに特許の持つ経済効果が高まる方向にある。医薬品特許の特徴は、製品の基本特許が原則一つのためライセンス料が高額となる。従って、先に特許で押さえられると後に続く研究開発、製品開発がその高額な特許料支払いで意欲をなくしてしまうケースも多い。
バイオ特許の日米欧出願数を比較してみると、我が国も、世界に伍して特許出願で健闘している。特に糖鎖工学、バイオインフォマティクス、微生物関連は日本のバイオの強みと言える。世界で1990-1998年に出願されたバイオ基幹技術の特許出願国籍シェアは米国 52%でダントツ、次いで欧州21%、日本20%であり、日本は欧州と拮抗している。

●ポスト・ゲノム関連分野の日米欧の特許出願者の比較
日本のポスト・ゲノム関連分野における出願人種別の比率は大企業が多く、欧州の構成に近い、しかし出願者たる大企業の業種の内訳を見ると、欧米では医薬品企業が圧倒的であるが、日本は医薬品に続いて、化学、機器といった業種がかなりの比率を占めている。
ベンチャー企業の業種の内訳を見ると、欧米は大部分が医薬品企業であるが、日本では化学、機器の比率が欧米に比べると高くなっている。

●米欧日のBT戦略の推進状況
米国では、構造ゲノムイニシアチブを策定(1999年)し、国をあげてBTの開発および産業化を推進中である。バイオの市場規模3兆円に対し、NIH(国立衛生研究所)だけで、3兆円の国費を投入し、世界市場の制覇を狙っている。
一方、欧州では、EU委員会が2002年1月に「国家戦略」を策定、加盟各国において積極的なバイオ政策が展開されており、市場規模は約2兆円と想定される。
これに対して日本は、1999年に5省庁・閣僚によるBT推進を申し合わせ、それを受けて2000年からミレニアム予算としてBT分野の予算を大幅拡充してきた。現在の市場規模は1.3兆円と想定されている。とくに昨年暮れにBT総合戦略を策定している。
このBT戦略において、未来社会および新バイオ産業の目標像を「生きる」・「食べる」・「暮らす」の向上として、身近でわかりやすい言葉で表現している。当初「働く」もあったのだが、意味内容をそろえる中で省かれた。
BT産業の将来像と課題では、より踏み込んだ目標の一つとして「医療費削減」をうたいたかったが、最終的に「国民医療費の適正化」という無難な表現に落ち着いた。
BT産業のマザーインダストリーとしてバイオツール・情報産業を位置づけている。バイオツール・情報産業はまさに日本の得意分野でありきわめて有望視されている。

●わが国のバイオクラスター戦略の現状と課題
バイオテクノロジーは基礎研究の成果が実用化に直結しやすく、産学連携の中、優れた大学等COE周辺でベンチャー企業が誕生している。バイオベンチャーの成長には資金、販路等で関連大企業やベンチャーキャピタルとの連携が重要なため、研究者、ベンチャー、製薬、食品関連等の大手企業の交流・連携の場となるクラスターの形成は、バイオ産業の発展にとって不可欠の条件となっている。
米国ではボストンなど9箇所、欧州ではミュンヘンなど20箇所のバイオクラスターが形成され、バイオ産業の本格的発展に寄与している。それに比較して、我が国のバイオクラスターは緒についたばかりの段階といえる。
バイオクラスターの政策課題は
・地域特性を活かした技術開発、インキュベーション支援等の重点投入
・バイオ医療、バイオ食糧等の分野での一層の規制緩和、構造改革特区の推進
・コア技術の知的財産としての保護体制の充実(TLO整備促進、補助金等での費用対象化)
・バイオベンチャーの育成に必要不可欠な経営戦略、技術戦略のための人材育成
などがあげられる。
次に、日本各地のバイオクラスターの現状と将来発展イメージを以下に紹介する。
○近畿バイオクラスター(近畿バイオ関連産業プロジェクト) バイオベンチャー数:34社
@卓越したCOEの存在
京都大学、大阪大学、 産総研ティッシュエンジニアリング研究センター、神戸医療産業都市(先端医療センター、理化学研究所(発生・再生科学総合研究センター) ほか
A関連産業の集積
製薬・化学、電気機械・電子部品、精密機械、食品、繊維等の中核産業
B東大阪等高い技術力を有する中小企業
・ コアテクノロジー   ゲノム創薬、再生医療
・将来発展する産業分野・イメージ 〜
バイオ医療(創薬、再生医療)
バイオ環境(微生物バイオ、植物バイオ)
バイオツール・情報(先端的解析装置産業)
○北海道バイオクラスター(北海道スーパー・クラスター振興戦略) バイオベンチャー数:28社
@卓越したCOEの存在
北海道大学(次世代ポストゲノム研究棟)、帯広畜産大学、産総研北海道センターほか
A関連産業の集積
情報産業(サッポロバレー)、食品製造業
・コアテクノロジー
次世代ポストゲノム(生体膜『糖鎖・脂質』工学等)
動植物関連バイオ技術(遺伝子組換え・解析等)
・将来発展する産業分野・イメージ
バイオ医療・食糧(バイオヘルスケア『機能性食品+創薬』)
・バイオ環境(バイオマスの利活用)
・バイオツール・情報(バイオインフォマティクス)
○関東バイオクラスター(バイオベンチャー育成)
バイオベンチャー数:約90社
@卓越したCOEの存在
東京大学医科学研究所、産総研(臨海副都心センター、つくばセンター)、理化学研究所(横浜研究所)、かずさDNA研究所 ほか
A関連産業の集積
微細加工技術、応用開発技術を持つ企業群
創薬関連企業
・コアテクノロジー
  創薬・医療機器、ゲノム(ゲノム解析、DNAチップ)
・将来発展する産業分野・イメージ
バイオ医療(創薬、医療機器等)
バイオプロセス(微生物の産業利用)
バイオツール・情報(バイオインフォマティクス、機器)
●BT戦略大綱の構成と主要項目
 以下に、BT戦略大綱の構成と主要項目を、戦略別に記す。
<戦略1> 研究開発の圧倒的充実
@研究開発予算の充実・強化の具体的ステップ
医療・医薬品、微生物・バイオプロセス、機能性食品・農業バイオ分野へ集中的投資(関係府省)、バイオツール・バイオインフォマティクスへの重点投資(経済省、関係府省)
A戦略的予算編成と効率的執行のための「研究開発司令塔」を含む組織体制の整備
総合科学技術会議において競争的資金、各省連携プロジェクトの企画・評価機能等を強化(総合科技会議、関係府省)
B人材の抜本的拡充
BT関連人材充実のための総合的人材育成策を充実(文科省、経済省)、外国人医師が医師免許を持たなくとも医療行為が可能な「臨床修練制度」の要件を緩和(厚労省)
C個別行動計画
96項目 うち、当省関連 33項目

<戦略2> 産業化プロセスの抜本的強化
@医薬品・医療機器での技術革新等に見合う価格設定システム等導入
革新的新薬の薬価算定にあたり、制度の運用見直しを更に検討(厚労省)、全国治験活性化3カ年計画を策定等(文科省、厚労省)
A食料、バイオプロセス、バイオツール分野でのインセンティブ強化への包括的支援策の策定
BTを活用した農業・種苗産業の将来像の検討(農水省)、バイオプロセス導入・普及やバイオツール・インフォマティクス産業に対する支援策 の検討(経済省)、バイオマス利活用のため総合的な施策の検討。(経済省、農水省、環境省、文科省、国交省 )
B特区等を活用した規制緩和の推進
農業への株式会社の事業参入、バイオマスエタノールの流通管理規制緩和等(農水省、経済省)
C個別行動計画 70項目 うち、当省関連 35項目

<戦略3> 国民理解の徹底的浸透
@国民の信頼を深めるための安全審査体制の強化
医薬品・医療機器の安全審査体制を充実(厚労省)、食品安全審査体制を強化(食品安全委員会、厚労省、農水省)
A国民理解促進の総合計画の策定とELSI予算の充実
関係各省共通の国民理解促進総合計画及び各省ごとの政策を策定(関係府省)、バイオセイフティ議定書国内担保法制定(環境省、経済省、農水省)、個人遺伝情報の保護のためのルールの策定(関係府省)
B遺伝子組換え作物(GMO)についての国民理解アクションプラン
遺伝子組換え作物について、国民理解行動計画を策定(農水省)
C個別行動計画 34項目 うち、当省関連  6項目
以上の3つの戦略を合わせると、個別行動計画総数200項目のうち、当省関連は74項目となる。以下に、当省関連の主要関連項目と個別行動計画(74件)について、戦略別に記載する
●経済産業省関連主要項目
<戦略1>
研究開発の圧倒的充実(合計96件、当省33件)
1.研究開発予算の充実・強化
・産学官の協力による経済活性化に向けた研究開発プロジェクトの積極的推進
・総合科学技術会議において競争的資金、各省連携プロジェクトの企画・評価機能等を強化
・実用化のシナリオを明確化し、関連施策全体を一体となって体系化したプログラム方式の推進
2.研究開発のターゲット
・バイオツール、バイオインフォマティクス、バイオプロセスへの重点投資
・(社)バイオ産業情報化コンソーシアム(JBiC)の活用による統合データベースの構築
・診断支援産業や治験支援関連産業創生の環境整備
3.研究開発促進のための体制整備
・生物遺伝資源のライブラリー化、海外遺伝資源獲得支援策の充実
・社会人を対象にしたバイオ人材育成等の拡充
<戦略2>
 産業化プロセスの抜本的強化(合計70件、当省35件)
1.産業化インセンティブの抜本的強化
・日本版バイ・ドール制度の委託研究開発予算における適用
・民間企業やTLOの特許取得支援
・バイオ分野における国際標準化戦略の策定
・バイオプロセス投入原料に関する関税割当制度の運用見直し等の実施
・生分解性プラスチックのグリーン購入法特定調達品目としての取扱いの検討
2.産業化に向けた各主体の能力の大幅強化
・アドバイザーの派遣等による大学発ベンチャーへの支援
・産業再生法の改正による事業再構築、産業再編の支援
3.事業環境の整備
・タンパク質立体構造発明に関する審査基準と権利化の明確化
・産業クラスター計画の推進
・回収・再資源化・資源利用までの一貫したバイオマス利用関連技術の開発
・途上国等におけるバイオマス活用を推進
<戦略3>
 国民理解の徹底的浸透(合計34件、当省6件)
・バイオセイフティ議定書国内担保法の制定
・個人遺伝情報の保護のためのルールづくりの検討
BT戦略大綱は印刷して出版する予定である。欧米に対して敵に手の内を見せるようではあるが、英語版も出版される。