第一部 【基調講演】
『食の安全性とリスクアナリシスを学ぶ』
(独)食品総合研究所 国際食品研究官
山田 友紀子氏
【食品の安全性をどの様に確保するか】
食品の安全性に関する関心の高まりは、新たな病原性微生物が報告されたり、BSE問題が発生したり、ダイオキシンなどの環境汚染物質が広がるなどの理由によるところが大きい。量数化による食品事故被害の拡大や、流通や人的交流のグローバル化による予測の出来ない事故の発生、心理的な要因として新技術、例えばバイオテクノロジーなどの広まりなどによっても触発されている。
ここで問題になるのが不適切な情報の氾濫で、必要な情報は欠如していて、一面的な情報が多いことが問題である。以前の食品検査は、最終製品の抜き取り検査がほとんどであったが、食品事故は生産段階での汚染が原因であることが多い。製造工程の管理が重要になってきており、HACCPの考え方が重視される所以である。
次に、安全かどうかは科学的評価によって決まるということも認識してほしい。安心できるかどうかは心理的なもので、証明されていようとされて無かろうと、安心できる場合とできない場合がある。分析化学の発達や感受性の高い実験動物系や細胞系の開発があり、リスク評価に難しさがでてきている。そのため、ゼロリスクの考え方から、使用・摂取のレベルで安全性の評価をすることに視点が移ってきている。欧米での食品の安全性に関する傾向は、「安全と証明されるまでは安全と言えない」(リスクアナリシス)であり、「問題が起きなければ大丈夫と考えよう」(危機管理)といった考え方ではない。危機管理的な考え方が必要な場合もあるが、前提としてリスクアナリシス的な考え方が必要である。
リスクアナリシスとは新しい学問分野で、最初工業分野で歩留まりを向上させるために使われたが、保険投資の分野で大きく発達し、科学の分野に応用が進み、食品の安全性については1980年代の終わりに使われ始めた。日本では、平成8年に環境庁が環境汚染分野に使い始めたが、食品の分野では応用が遅れた。WTOの衛生と植物防疫処置に関する協定(SPS協定)では、十分な科学的な根拠に立脚する必要がある。Codex規定があれば従う。関連国際機関によって確立されたリスクアセスメントの手法を用いて、人へのリスク評価をしなければならないとされている。CodexはFAOとWHOにより40年ほど前に設置された政府間機関であり、消費者の健康の保護と公正な食品貿易・取引の保証を目的としている。Codexの1991年の総会で「リスクアナリシスを取り入れるべき」という決議があり、食品の安全性に関するリスクアナリシスが1993年より検討されている。残留農薬、動物薬、食品添加物等について論議し、用語の定義とリスクアセスメントの役割についての原則を採択している。現在はリスクアナリシスの作業原則を検討している。
【リスクアナリシスの枠組み】
リスクアナリシスの枠組みでは、リスクマネージメントの一部であるリスクエバリュエーションが最初で、リスクアセスメントとは機能的な分離はあっても、相互作用が必要である。リスクアナリシスでまず、しなければならないことはリスクマネージメントで、食品の安全性に関する問題点を挙げ、問題点の内容を記述し、どの様なハザードがあるかを分析し、優先順位を付けることである。次に、アセスメントの方向性と目的を明らかにする。リスクアセスメント政策は、アセスメントの各段階で価値判断と政策選択のための指針となり、その科学的無誤謬性を保つ役割もする。政策の決定は、リスクアセッサーとリスクマネジャーが協議の上で行い、文書化しておく必要がある。
リスクアセスメントの流れは、ハザード同定(Hazard Identification)、ハザードの特性付け(Hazard Characterization)、暴露評価(Exposure Assessment)、リスク判定(Risk Characterization)である。特性付けと暴露評価は、順番を逆転してもかまわない。
アセスメントの結果が出たら、内容を閲覧可能な記録に残す。そして、どの程度リスクを受け入れることが出来るか、コストとのバランスはどうか、技術的に可能な対処法はどれかなどを検討し、利用可能な政策オプションと実施可能なマネージメントオプションを決定する。その後、マネージメントを行った結果をモニタリングし、再評価する。ここで最も重要な因子は、「健康の保護」であり、事故の発生予防である。最近国際的に大問題となったのは、科学的不確実性をいかに考慮するかである。ここでは、予防的処置(Precaution)を適用することになるが、これはあくまでも便宜的な処置であり、新しいデータが揃えば、もう一度リスクマネージメントを立て直す必要がある。
リスクコミュニケーションを確立することは重要で、全ての関心あるグループの間で維持される必要があり、情報公開により透明性を確保しなければならない。ただ情報を出すだけではコミュニケーションとは言えない。意見交換や消費者の意見を政策に反映させなければならない。リスクコミュニケーションは、問題の解決法でもなければ、広報行為でもない。より分かり易い用語を選んだりすることは当然で、正確且つ明瞭な情報を提示する必要がある。リスクコミュニケーションの今後の課題は政府としては意識改革で、知らせることによる混乱より、知らせないことによる事故の拡大を問題視する様になるべきである。同時に、消費者も知識・経験の蓄積をして行くべきである。生産者も、科学者も一般大衆にいかに分かり易く説明するかの責任を持つ。
最後に、衛生規範に従って安全な食品を製造してほしいと思う。また、消費者も食品の保存や食べ方に気を付けてほしい。食品の安全性確保には、適切な情報、教育研究、食品表示、適切な規制などが必要で、政府の適切な政策っが必要な事、最終責任は政府にあることを再認識してほしい。
第二部 【パネルディスカッション】
『食の安全とは?』
司会 冨田房男 HOBIA会長
パネリスト 鎌田 博(筑波大学)、角田誠二(北見市農家)、平野孝吉(いわみざわ農協)、倉持泰子(生活協同組合コープ十勝)、村田吉平(道農政部)、佐藤節子(栄養士、道文教大)、山田友紀子(食総研)
(角田) 北海道で初めてモンサント社のラウンドアップ耐性大豆を試作している。マスコミによると家畜の飼料や一部の食品は既にGMOになっている。この問題に対してセンシティブになっているのは消費者ではないか。化学肥料万能の農業にも疑問を持っているが、有機肥料には、安全性についての疑問がある。
(鎌田) 食品の安全性に関しては、実質的同等性を重視している。組換え食品にリスクアナリシスを適用することについては、特定されるハザードが発見されていないので、リスクアナリシスはできない。
(倉持) 生協連も白か黒かの論議はやめており、既存作物でもリスクがゼロではないことは理解している。生協連の製品については独自の基準でリスク表示をして、使うかどうかは組合員の判断に任せている。
(佐藤) 学校や病院の給食のような強制的に与えられる食事に関して、事故を未然に防ぐ教育をしている。無農薬栽培は難しいものであると実感している。
(平野) 有機に準じた栽培をしているが、時に難しさを感じる。北海道の冷涼な気候を利用した、低農薬の作物をアピールしていきたい。
(村田) 道の農政部では、古典的な品種改良の方法で十分な成果を上げてきた。過度に食品の安全性が論議されているが、安全性の本質を考える必要があると感じている。
(冨田) リスクアナリシスの際に行う分析のコストは誰が負うべきだろうか?
(山田) 分析の目的によって負うべき人が違うだろう。海外のデータを使っても良い。行政ももう少し本気になって分析を進めるべきである。
(冨田) 科学的データとは、どのようにとらえるべきか。また、複合汚染については?
(山田) 拮抗作用や相乗作用を測定するには、時間もお金もかかる。安全な食事をしたければ、少量ずつ他種類食べると良い。
(鎌田) 科学的データでは方法によって信頼性に差がでる。遺伝子組換え体の混入率を測定する日本の方法は、Codexでは認めていない。
(冨田) 次に、リスクアナリシスをどの様に使うかについてであるが、ハザードの順位づけについては?
(山田) Codexでも順位付けをしているし、各国も行っているが国によって事情が違う部分がある。
(平野) 安全性とコストは両立しない場合があることを理解して欲しい。生産者のプライドとして危険な農薬は使わないし、責任も取れない。
(倉持) 消費者としては一世代の中でリスクが収まるような情報が欲しい。消費者に選択しろというのは無理なので、多くの科学者などが共通で納得できるしっかりした情報を提供してもらいたい。
(山田) リスクコミュニケーションで表示は重要で、国際的に見ても食品の表示は消費者のためと見られている。日本では企業の利益のための表示が主流のようだ。日本では、良質のフードジャーナリストがいない。マスコミの世界でも、専門化を要請して欲しい。同じ言葉を皆が話せるようになると、本当のリスクコミュニケーションが取れると思う。
第94回例会 「食生活と生活習慣病の予防」 フォーラム講演要旨
去る平成14年9月24日に開催されました、第94回例会「食生活と生活習慣病の予防」フォーラムの要旨を以下にご紹介します。
【講演1】
『タマネギの機能性成分の調理加工に伴う変化と利用』