HOBIA(北海道バイオ産業振興協会)



HOBIA例会・セミナーの記録
これまでのHOBIAの例会やセミナーの記録です。HOBIAの活動状況が見えてきます。
15周年記念講演会講演要旨

「切手で見るバイオの世界」 
北海道バイオ産業振興協会会長 高尾 彰一 氏
「切手で見るバイオの世界」
 北海道バイオ産業振興協会会長 高尾 彰一 氏

1.はじめに
 バイオインダストリーは21世紀にむけて、我が国の基幹産業の一つとして大いに注目されており、北海道においても益々その重要性を増しつつあるといえましょう。
 ところで、世界初の切手が1840年イギリスで誕生してから今年で丁度160年。その間、世界各国から発行された切手はすでに約40万種とも言われますが、それらの中には特に近年、バイオに関するものも少なくありません。私は、趣味の一つとして専門の微生物の他広くバイオ分野の切手も収集していますが、日本はもとより海外でもこのような切手を幅広く集めている人はほとんどいないようです。
 さて今年9月、バイオジャパン2000が東京で開催されます。4年に一度のこの盛大な催しに協力し、バイオへの理解を深めてもらうために切手の展示を考え、「切手で見るバイオの世界」と題して様々な切手を20枚のリーフにまとめ、主催者のJBAにすでにお渡ししてあります。しかし、バイオ関連の切手は他にもまだ数多くありますので、本日はさらに多くのリーフを加えてお目にかけたいと思います。
2.オールド・バイオ関連切手
1)バイオのパイオニアたち
 まずオランダのレーウェンフック。300年余り前、倍率約250倍の自作の顕微鏡で、ローソクの光を当てながら口の中のバクテリアを世界で初めて観察し、今見ても正確なスケッチを残しています(図−1参照)。
次は、動植物の学名を属と種で表す二命名法を確立したリンネと、「種の起源」や進化論で有名なダーウィン、「メンデルの法則」で知られるメンデルと、ショウジョウバエを用いて遺伝子説を提唱したモーガンの切手です。微生物学の父と言われるフランスのパストゥール。封筒には彼の生家のあるドールという町の郵便局の記念スタンプが押されています(図−2参照)。参考までにパストゥールを扱ったフランスの5フランの紙幣やパストゥール研究所内の博物館、地下室に安置されている彼の棺などの写真も紹介。


図−1 レーウェンフック(1632-1723)


図−2 パストゥール(1822-95)

 結核菌などの発見者、ドイツのコッホ。彼が考案したバクテリアの染色法や平板培養法は、微生物の研究に不可欠な技法として今も広く使われています。パストゥールの研究にヒントを得て消毒液をスプレーしながら開腹手術に成功したイギリスの外科医リスター。彼は乳酸菌の純粋培養も初めて行っています。結核と並んで恐れられたらい病、その病原体のらい菌を発見したハンセンの切手も出ています。白血球の食菌作用などで知られるメチニコフ。ヨーグルト中のブルガリア乳酸菌の有用性をもとに長寿説を立てたことでも有名です。
2)ビタミンB1とC
 ビタミンB1の発見者であるオランダのエイクマンと、日本農芸化学会の創設者の一人で東大教授の鈴木梅太郎先生。ビタミンCはハンガリーのセント・ジェルジーによって見いだされ、その構造はイギリスのハワースによって決定されました。彼らはともにノーベル賞を得ています。
3)抗生物質
 その幕明きは1929年、イギリスのフレミングによるペニシリンの発見で、彼のアオカビのコロニーを描いたイギリスの切手などを紹介。ストレプトマイシンを発見したワックスマンの切手とともに、彼がまだ無名の29歳の1917年、北大農学部の応用菌学教室の初代教授、半沢先生に当てた古い貴重な封筒も披露。
4)顕微鏡の発達
 微生物やバイオの研究に欠かせない顕微鏡の改良と工場設立をおし進めたドイツのツァイスやアッベと、カール・ツァイスの古い顕微鏡などの切手。さらに電子顕微鏡を描いた各国の切手も紹介。
5)分析技術の進歩
 ワールブルグ・マノメーター、超遠心分離器、放射性同位元素や電気泳動、さらにペーパークロマト、カラムクロマトなどの切手。
6)醸造・発酵食品
 世界の国々のワイン、ビール、その他ラム酒、ヤシ酒、テキーラなどの酒類、パンの切手。
7)その他の食品関連切手
 製糖工場(甘蔗糖とビート糖)、油脂、緑茶と紅茶、びん詰、缶詰、うまみ調味料、酪農とチーズ。
3.ニューバイオ関連の切手
 1953年、ワトソンとクリックが遺伝子の本体であるDNAの二重らせん構造を提唱、これを契機に遺伝生化学は飛躍的な発展を見せ、やがて訪れるニュー・バイオ時代の端緒となりました。
 そこで、ワトソン、クリックのノーベル賞記念切手のほか、各国から出ているDNA二重らせんの切手、さらにアーバー、ネイサンス、スミスらの制限酵素(ノーベル賞受賞)
の切手もお見せします(図−3参照)。


図−3 ニューバイオの切手

 糖尿病の治療薬であるインスリンは、従来ブタの膵臓からとられていましたが、現在は遺伝子組換え技術によって大腸菌で作らせたヒトインスリンが用いられています。ここにはインスリン発見にちなむ切手を紹介します。
 次は植物バイオ。近年、植物の育種、品種改良には細胞融合や遺伝子組換えなどの新しいバイオ技術も積極的に活用されています。ここにあげたのは、それらに関係のある様々な切手です。
 医食同源といわれるように、健康に関わり深い食糧や食品はバイオの重要な対象の一つです。そこで、国連のFAO(食糧農業機関)の創立記念日である10月16日の「世界食糧の日」、さらに1992年ローマで開かれた国際栄養会議にちなむ数々の切手をまとめておきました。
北海道は全国一豊かな農畜水産、林産資源に恵まれており、それらの付加価値を高めるためにバイオ技術の活用が大いに期待されています。そこで、その対象となる一次産業の代表的な切手もあげておきます。
4.医学の分野
 ガンとの戦い、および制ガン物質を作るキノコの切手。キノコの制ガン物質はもっぱら日本で盛んに研究されています。その有効成分はいずれもグルカンと呼ばれる多糖類で、すでに医薬品として製品化されているものもあります。
 エイズの撲滅に向けて。エイズ患者第1号はアメリカの男性で1981年。その後まだ20年しか経っていませんが、感染者や発病者は世界中で著しい増加を見せ、21世紀に向けての一大問題となっています。世界初のエイズ切手は1988年ウガンダから出ていますが、以来エイズを扱った切手は数十カ国からすでに百数十枚、その図案もコンドームや骸骨、セックスを描いたものなど様々です。
5.地球環境の保護とバイオ
 切手の説明に入る前に、北大にいた当時、私の提案で昭和49年、文部省の特別研究「微生物による環境浄化」という大規模なプロジェクトがスタートし、やがて全国の理学、工学、医学などの分野の研究者も加わり、環境に関する広汎な研究が著しく進展したことを紹介。環境保全をアピールする切手も各国から多数発行されていますが、その代表的なものをリーフ2枚にまとめておきました(図−4参照)。
6.エネルギーの切手(図−5参照)
 ケニアの切手にあるバイオガスのように、エネルギーについても微生物の利用を中心にバイオとの関わりが少なくありません。リーフにはサウジアラビアの石油の切手も載せてありますが、今年2月、日本のアラビア石油はこの国での採掘権を放棄しました。
 北大卒の大実業家の山下太郎氏がサウジ政府と石油採掘権を契約し、昭和33年に設立したのがアラビア石油でした。そこで、理学部創設時に学部長を務めた田所哲太郎先生と彼とのエピソードを紹介、かつて山下氏が北大に寄贈した生化学研究室にふれるとともに、私が保存している両氏の手紙などを披露して講演を終了しました。


図−4 地球環境の保護とバイオの切手


図−5 エネルギーの切手

「グリコクラスター研究の現状と北海道産業への展開」
北海道大学 理学部 教授 西村紳一郎 氏

1.はじめに
 最近の進歩も含めて糖鎖というものがどれくらい将来性があるか、化学の立場からバイオに近づくにはこういうストラテジーがあるというところをお話ししたいと思います。まず最初に、昨年度から始まったグリコクラスターを説明いたします。
Glycotechnologyという言葉はMolecular Biology, Protein Engineering, Gene Technologyの派生でできあがりました。糖質というのは構造解析がとても難しく、その合成に携わる酵素群もわかっていないという背景があります。セントラルドグマにはDNA->RNA->タンパク質と書かれておりますが、我々はこの後に->糖タンパク質と書き込み教科書に載せました。タンパク質が合成された後、オリゴ糖が付加されタンパク質にさらに機能が付与されます。
 研究の対象としては非常にホットなところです。プロテオグリカン、糖脂質など最近話題の糖鎖は、複雑な糖が組合わさって細胞の表面で情報伝達、認識に深く関わってきていることが明らかになってきました。たとえば、インフルエンザの感染では細胞表面の糖鎖の認識が必ず最初に起こります。受精における糖鎖の役割も重要で、精子表面の糖転移酵素が卵子上の糖を転移して受精が開始されます。臓器の適合性を決めているのは一つは糖です。糖鎖は細胞上に点々と存在しているのではなく、クラスター状で存在していることがわかっています。このようなパッチのような形で細胞情報に携わっているようです。
2.グリコテクノロジープロジェクト
 一つのターゲットは、方法論が確立されていない合成方法(有機合成、酵素合成)を開発し、密集できるような再構成技術を作り出すことです。この技術を確立し糖鎖をコントロールする技術を開発するという発展的な流れで研究を行って参りました。私の研究室では3つのグループ(約15人ずつ)に分かれて、分子生物学、酵素合成化学、自動合成法、新素材開発、複合糖質科学、材料バイオテクノロジーなどの分野の博士取得者たちが集まって研究を行っています。
3.糖蛋白質のおもしろさ
 南極に住むスズキの仲間から耐低温性のanntifreeze glycoprotein(抗凍結糖タンパク質)が見つかっています。シンプルな糖が結合していたので、いったいどうしてこれが耐低温性があるのかというメカニズムの解析を始めました。その結果、この糖タンパク質が氷晶の成長を阻害することがわかりました。高分子であるにもかかわらず、まるで食塩と同じように凝固点を下げるという効果がありました。合成しその効果を高めようと考えたのですが、かなり合成が難しい生体分子でした。合成段階で保護基を使いますが、アミノ酸は酸性下で外すような保護基が、糖はアルカリ性下で外す保護基が多いのです。研究の結果、アザイドを用いて一気に高分子化することに初めて成功いたしました。実際に、合成した糖タンパク質を水の中に入れて凍らせてみると氷が針状結晶となり、水が凍結しにくくなることが証明されました。合成化学のメリットはそれらのアナログを作ることができるところです。分子量が大きいほど活性が高く、クラスター構造が重要であると分かりました。
 また、インフルエンザウイルスが細胞に結合をするのを阻止する糖タンパク質を発見し、特許化しました。研究は基礎から応用に移っていきますが、ここで膜における糖のパッチ構造の必要性を証明しました。細胞表面に密に糖鎖が生えているとウイルスは立体障害でくっつくことができないのに対し、糖鎖がバラバラにあると認識できるようになります。糖が密に存在するのは、ウイルスから身を守るための手段だったことがわかりました。
4.糖タンパク質の合成方法
 メリフィールドが糖タンパク質の合成法でノーベル賞を取ったのですが、まだまだ糖タンパク質の人工合成はむずかしく、酵素の力を使っています。ある特殊なリンカーを用いて高分子にのばして、最後にリンカーをはずすという方法で高分子を合成しています。用いる糖転移酵素はきわめて高価ですので、もちろん固定化して用いています。今では100種類以上の糖転移酵素がクローニングされており、これらの遺伝子をマルトース結合タンパク質とのヒュージョンプロテインとして発現させて合成に用いています。ガングリオシドという糖脂質の合成も技術の応用で作ることができました。これはガンの抗原を識別するので、将来楽しみな物質です。
5.グリコクラスタープロジェクトの研究状況
 物質と生物が共生するサイエンスが21世紀に望まれます。私はヌクレオチド、タンパク質、アミノ酸、糖質、これらを生分解性のあるポリマーへの利用可能性や、いらなくなったら微生物などで分解することを考えています。デュポンでは、すでにバイオ(微生物)でトウモロコシの廃物からトリメチレングリコールの発酵法で、バイオの夢の糸を作っています。北海道の基幹産業として糖質資源がありますが、糖鎖の資源をどういう風に使っていこうかと考えています。対象は医薬農薬で、将来的には応用範囲がまた基幹産業につながるようになっていきたい。これには、小さな障害を一つ一つクリアーし、さらに方法論そのものを開発する必要があります。そこで、5年間のプロジェクトを立ち上げました。
 現在、このプロジェクトで北海道電力、鐘紡、東洋紡、日本オルガノン、生命工学研から学位のある研究者を数十名雇って研究を行っています。H15年に終わってから次につながるようなプロジェクトも必要だと思います。生物有機化学研究所では、でんぷん資源などを利用して、ブドウ糖から再構築した界面活性剤、ポリマー、ダイエットデンプンなどが狙い目です。石鹸は一部企業化されているようですが、コストダウンが必要です。また、アルギン酸はグルクロン酸と重合するとポリアミドができます。これで超薄膜を作ることができます。また、カラ松にはアラビノガラクタンという特殊な糖がありますが、ひとひねりして新たな機能を付与することができると考えています。
6.産学官連携プロジェクト実現への遠き道のり
 産学官の、このようなプロジェクトを立ち上げると過酷な労働が待ちかまえていました。膨大な資料をもとに、どういう研究をするのかについて連日打ち合わせが必要でした。NEDOや産業技術審議会に通い、1年くらいかかってやっと認められました。
また、研究体制を整えるのも大変で、実験室の改良、先端研やコラボを借りるなど、プロジェクトが立ち上がるまでに多くの費用が発生しました。
 蛸足になっている40名以上の管理を数名で行うことになっています。実際に理学部では10数人の学位を持った方と大学院生、および企業の方が動いていますし、コラボの研究体制もやっと立ち上がりました。最初に新しい研究のパターンを作れば、あとはパターン化すると思います。
7.おわりに
 みなさんが考えている研究と実際の研究には大きなギャップがあるのです。このような生物資源工学には、いろんな連携プロジェクトがあると思います。また、この分野には世界でも有名な研究者が数多くいますが、研究環境がまだ整っていません。この分野に限らず産業はBasicな分野から発生しています。これから実用化研究も進めていきますが、企業化に向けて企業との連携を進めていく制度にはギャップがあってやりにくい面があります。是非、官の方々に考慮していただきたいと思います。