バイオインダストリー振興事業

北海道の助成、JBA日本バイオインダストリー協会の支援事業


−研究交流事業、地域バイオ育成推進事業−
 地域バイオ育成推進事業
 地域間のネットワークの形勢を推進し、地域のバイオ産業の均衡ある発展に寄与するため、道内各地域のバイオ振興団体からなる実行委員会により、地域が必要としている地域バイオ育成推進講座など各種バイオ産業の振興事業を実施しています。

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 地域バイオ育成講座(帯広) 講演要旨

 去る12月3日に帯広において地域バイオ育成講座が、翌4日には札幌において第18回バイオステージが開催されました。両イベントとも京都府立医科大学吉川教授に講演していただきましたので、以下に両地の講演の要旨としてまとめて紹介します。
 なお、地域バイオ育成講座における、北海道東海大西村弘行教授のご講演は、紙面の都合上次号に掲載いたします。

「抗酸化食品による生活習慣病の予防」 (札幌)
「食の効能評価におけるバイオマーカー」 (帯広)
京都府立医科大学第一内科 教授 吉川 敏一氏

 生活習慣病を言い換えると「つけが何十年後に出てくる病、life style related desease」と言える。発症の原因は、生活習慣に加えて、SNPsを含めた遺伝的素因、さらに環境要因である。酸化ストレスに関与する多くの遺伝子が同定され疾患候補遺伝子として浮かび上がってきている。しかし、生活習慣病は、多因子遺伝であり、解析は容易でない。
<酸化ストレス>
 生活習慣のなかには酸化ストレスと密接な関連にあるものが多い。喫煙、飲酒、不適切な食事などにより容易に酸化ストレスは増大する。昔、理科の時間に酸化とは酸素が他の物質と結合することだと習ったと思いますが、現在の化学で酸化をより正確に定義すると、Aという物質がBという物質から電子を奪うことを「BがAによって酸化される」と表現する。不対電子があると、他の物質から電子を奪って安定しようとするので、その物質は非常に強い酸化作用を持つわけだ。このような不対電子を持つ物質を「フリーラジカル」と呼ぶ。
 フリーラジカルが発生する瞬間は、内因性(食べたものをエネルギーに変えた時、細菌をやっつけた時、怪我で炎症起きた時)、外因性(紫外線、ストレス、酒、タバコ、排気ガス、激しい運動、薬を飲んだ時、抗がん剤)などである。
フリーラジカルを作る活性酸素には、4種類ある。スーパーオキサイド、ヒドロキシラジカル、過酸化水素、一重項酸素である。酸素は電子を奪って98%水になるが、2%は、フリーラジカルになる。
 タバコの害は大きい。活性酸素は2週間は抜けないので、リスクが大きい。ガンのリスクだけでなく、指を切断しても喫煙者では、くっつける手術は難しい。タバコを吸っている本人だけでなく周囲の人が肺がんになるなど、自分以外への害も大きい。喫煙をやめることが一番いい。  糖尿病患者が、酸化ストレスの状態にあることは多くの報告より明らかだ。糖尿病の人は抗酸化ビタミン、カロテノイドが低下した酸化ストレス状態にあると考えられる。

<バイオマーカー>
 環境因子、特に活性酸素によるDNA傷害は発癌との関連で極めて重要である。フリーラジカルが原因となるガンである。これを定量化してバイオマーカーとすることを狙っている。しかし、酸化ストレス度を評価する臨床指標には議論もある。生体内の抗酸化物質は他の抗酸化物質と連携して効果を発揮しており、単独ではなく総合的に抗酸化物質、酸化ストレス度を評価する必要がある。
 生体における酸化ストレス状態を評価するために、酸化/還元に関与するバイオマーカーを組み合わせて測定し総合的に評価する試みを行っている(酸化ストレス・プロファイル)。体内でフリーラジカルが暴れると、脂質が酸化されて、生体膜傷害、核酸が、酸化されDNA鎖が尿中に出る、などの兆候をとらえることができる。酸化ストレスを定量するマーカーである。測定によって、リスク定量化できれば、疾病予防のバイオマーカーとできる。

<次世代プロジェクト>
 予防こそ大切である。しかし、予防には、症状というマーカーが欠如している。潜在期での診断、疾患予防マーカーの難しさだ。マーカーによってリスクの軽減度を把握する判断する候補は、抗酸化酵素の誘導、修復酵素の誘導、抗酸化物質の増加、疾病関連遺伝子の出現などがある。
 タンパクを網羅的に見る国家プロジェクトが、進んでいる。プロテオミックス、ゲノミックスと呼ばれている分野だ。演者らも酸化ストレスマーカー開発プロジェクトを立ち上げ進めている。エンドポイントが疾病の発生でなく、それ以前に食品や生活習慣の効果判定が必要であり、それの評価方法の開発である。住商バイオとともに開発を進めているが、プロテインチップを作って判定する。大阪商工会議所の98社が参加している。明治、味の素、ファンケルなどが、研究費、1社年間1000万円で3年の予定。予防でポイントとなるのは、医薬でなく、食品だ。長期投与が、可能で、安全性が、高い。医食同源も社会的認知が進んでいる。
 バイオマーカーサイエンス(株)を設立した。バイオマーカーの評価いかにするかが重要。抗酸化ストレスマーカーを主体にして、抗体チップや抗酸化チップを作る。疾病関連マーカーとなるタンパクを見つけたい。抗酸化に限れば、プロスタグラニディンや核酸の挙動を反映するタンパク質が考えられる。糖尿病患者の変性タンパクの差なども有望だ。まずは、すでに知られている沢山のファクターや、売られている抗体を用いて、検出と評価を進める。5年計画の最初の1年で成功させておいて、さらなるチャレンジをしたい。演者は、疾病との関係をシャープに迫って行きたい、と締めくくった。

 地域バイオ育成講座(帯広) 講演要旨 その2

 去る12月3日に帯広において開催されました、地域バイオ育成講座 in 帯広における、北海道東海大西村弘行教授の講演内容を以下にご報告します。

「生体調節機能検証による生活習慣病予防食品の開発」
 北海道東海大学工学部 生物工学科 
教授西村弘行氏
●食品の開発・評価にはヒト介入試験のデータが重要
ヒト介入試験を行い、ヒト血漿中の脂質 酸化LDLを計測した。抗酸化物質としてポリフェノール、カテキンが知られているが、硫黄化合物を多量に生産するねぎ属植物も有望である。タマネギ、ネギ、ニラ、ニンニク、ギョウジャニンニクなど。これらについて、ヒト介入試験を行い生体調節機能を検証し、特にタマネギの新機能性食品の開発を行っている。ここでヒトのLDL酸化抑制効果を立証することがポイントなのである。

●大学発VBの起業化
研究成果の社会還元と大卒研究者の地場定着をめざし、97年に(株)北海道バイオインダストリーの設立に尽力、副社長を務める。また、2000年に設立されたネイチャーテクノロジー(株)には技術指導で協力し取締役に就任。


●地場の有望植物素材
現代社会は糖尿病をはじめとする生活習慣病の増加、老化や痴呆症の問題などによって、国民医療費の上昇 健保財政の破綻が進み、国民の医療費の自己負担は3割に引き上げられようとしている。みずから食品で身を健康に保つ努力をする時代になった。では地場でどのような新機能性食品が考えられるか。
・ヤーコンの商品化
 茨城大学の月橋先生がヤーコン研究会を主宰、第一人者。オリゴ糖やポリフェノールが豊富で注目されている。
 根菜部はダイエット向け商品「スリムのてん菜」、葉部を使って「ヤーコン茶」を開発、 血糖値抑制効果などから人気がでている。
・ギョウジャニンニク
 におい成分のもととなっている酵素が働いて効く。効力を損なわずににおいを抑えるには、まずギョウジャニンニクを冷して酵素が働かない状態にして、豚肉のビタミンB1と刻みながら混ぜる。この反応でアリチアミン(活性持続型ビタミン)ができ効果を発揮する。この調理法でにおいはなんと1/100以下になる。これが北大祭の名物になった行者ニンニクギョウザである。ギョウジャニンニクは酸性土壌を好み、硫安、堆肥などを施すとにおいが強くなり有効成分が高まる。 
・ハマボウフウ 顕著な効果は見られなかった。
・マタタビ 網走市農協で栽培、砂糖漬けが血圧上昇抑制効果
・コクワ(サルナシ) 血圧上昇抑制効果ない
・ハスカップ 抗酸化力ある
・チコリ 抗菌性ある
・ヤーコン 生は梨のようにサクサクして甘い。煮るともっと甘くなる。キンピラがよい。茎の下部が種、来年使える。病虫害抵抗性あり。ただ貯蔵性が悪いので、翌年1月までがせいぜい。従って漬物などには向いている。粕漬けがうまい。

●夕張バイオ研究農場
夕張市の活性化に貢献する目的で、北海道東海大学が設置。14年たった今も農場長を務め続けている。地場の有望植物を栽培研究してきた。食品加工場も立地、(株)バイオインダストリーが買い上げる形。

●タマネギ機能性食品開発
タマネギ、ネギ、ニラ、ニンニク、ギョウジャニンニクなどネギ属植物は、香辛薬用野菜として食生活に供され、特に含硫化合物を多量に生産することから生活習慣病予防の観点から興味が持たれている。ネギ属の特徴は、食用部分に含硫アミノ酸を含み、調理・加工に酵素C-Sリアーゼ(アリナーゼ)の作用でthiosulfinate類を経て各種の揮発性含硫化合物に変換される。これらはヒトLDL酸化抑制効果を持つものとして期待されている。
北海道はタマネギの大産地である。タマネギは安値になると価格維持のために廃棄される。中国産も入ってきて競争になっている。道内産は高いが品質・効用が高いので、これを生かしたい。
・スーパーキタモミジ 生で辛くて涙が出る、Bio-rational Control 生物合理性コントロール(自己の防御機構に依拠)食品加工に生かす。商品価格:3000-6000円/月額が消費者のレベル
●ヒト介入試験による機能性食品開発
 抗酸化作用について、in vitroやラット・マウスなどの動物実験(in vivo)で評価された抗酸化能が、ヒト体内でその効果を発揮しうるかどうかは疑問である。
抗酸化物質がヒトの体内でその効果を発揮するには、消化器系による影響、循環器内への吸収・動態などの問題をクリアにしなければならない。また、体内吸収率がどの程度なのか、単一物質による作用だけではなく数種の物質による複合効果の可能性など、多くの問題がある。したがって、ヒト介入により抗酸化作用を調べることは非常に重要であると考える。抗酸化作用のメカニズムを解明するには、in vitroと実験動物を用いたin vivoを基礎として進めていくことが重要であるが、ヒト介入による検証も平行して行う必要がある。
そこでヒト血清中の血漿から総脂質画分をクロロホルムーメタノール系溶媒で抽出し、化学発光(Chemiluminescence)−高速液クロ(HPLC)法でバイオマーカーとしての過酸化リン脂質の定量を行った(Figurel)。食品試料としては、ギョウジャニンニク、タマネギなどの北方系機能性食材をそれぞれ経口摂取した。モニターには研究当事者の筆者や東海大学研究メンバーがなり、インフォームドコンセントをしっかりおこなった。
採血は札幌逓信病院で、経口摂取前と経口摂取1時間後に行い、生体内過酸化脂質の量を比較することにより、活性を判定し、ギョウジャニンニク、タマネギともに効果が出た。今後さらにこのようなヒト介入試験によって生体調節機能を検証し、新たな機能性食品開発を推進していくものであるが、多くの方々の参画も期待したい。


  地域研究・技術開発交流会 「食の機能性を科学した商品開発」講演要旨

 10月18日(金)に、北見市芸術文化ホールにおいて、北海道およびHOBIAが主催し、北見市の後援で表記技術開発交流会が開かれました。以下に要旨を報告します。

【研究発表1】
『乳酸菌バクテリオシンの機能研究と応用への展開』
独立行政法人食品総合研究所
 応用微生物部酵母研究室長 川本伸一 氏
 バクテリオシンは、リボゾームで作られるペプチドで、類縁菌に対して抗菌活性がある。乳酸菌の生産するバクテリオシンは、物理的に安定(熱、pH等)、抗菌作用のスペクトルが狭い、グラム陽性菌に効くなどの特長があり抗菌物質としての利用が期待されている。ナイシンは、食品の安全性に対する高い関心の中で最近バイオプリザバティヴとして認可された。
 バクテリオシンの検索、新規バクテリオシンの精製と遺伝子のクローニング、食品への応用技術、安全性の検定の面から研究してきたが、タイのサイレージから分離された好温菌の生産するエンテロシンSE−K4とムンジチシンKSを得た。これらは、バクテリオシンの分類(クラスT、Ua、Ub、Uc、VおよびW)の中のUaに属し、耐熱性があって、食中毒菌として世界的に問題になっているリステリアに対しても強い抗菌効果を持つ。
 ムンジチシン精製標品のアミノ酸配列を解析し、クローニングによりムンジチシンの生産に関わる遺伝子クラスターの解析を行った。既知のバクテリオシンの中で最もコンパクトな3つの遺伝子からなるクラスターのみで生産に必要十分であった。 人為的にリステリアを接種した発酵ソーセージに添加して、優れた増殖抑制・殺菌効果を確認した。
 ペプチド性バクテリオシンが細胞膜攻撃性であることから抗生物質耐性病原菌に対する治療への応用も視野にいれている。 生産菌が発酵食品由来でないことから実用化に向けて急性・慢性毒性など安全性の確認が必要である。

【研究発表2】
『発酵乳由来ペプチドの血圧降下作用研究とその応用』
カルピス株式会社 基礎研究フロンティアラボラトリー長
高野 俊明 氏
 発酵乳は、古来保存食と同時に健康効果のある食品として利用されてきた。発酵により生成した物質が直接身体に作用するという「バイオジェニックス」仮説がある。20世紀初頭のメチニコフによる「発酵乳(ヨーグルト)の不老長寿説」もある。これらを証明すべく殺菌したカルピス酸乳を一生与えたマウスの寿命への影響を検討した。普通の餌や未発酵乳を与えたマウスより寿命が長く、感染症、腫瘍、循環器系障害の発生が遅くなることが推察された。疲労回復、学習効果、血圧降下作用の点でも効果があった。
 血圧降下作用の機序、有効成分の探索をした結果、酸乳より2種類のACE(アンジオテンシン変換酵素:体内で昇圧ペプチドを生成)阻害物質が単離精製された。これらはラクトトリペプチドであり、高血圧自然発症ラットに長期投与すると血圧が降下した(単回投与でも効果あり)。正常血圧ラットには影響を及ぼさず、大量投与も問題なく安全である。 ヒトで8週間毎日95 mlの酸乳飲用の臨床試験(プラセボの飲用試験を含む)をした結果、ラットと同じく効果があり、副作用はなかった。
 これらの知見をもとに酸乳を配合して製品化した「アミールS」は、1997年に特定保健用食品としての許可を得た。 タブレットタイプも試験している。

(意見交換)
 冨田房男・HOBIA会長をコーディネータとし、2名の講師、北見網走地域の産官学関係者等を含めて27名が参加して、意見交換が行われた。
参加者からは、インターネットの利用、マス鮨の日持ち改善、ナイシンの利用、漬け物乳酸菌の利用、サケ白子の抗菌性の利用、各地の鮒鮨から分離した菌、ガスを出さない乳酸菌などの技術的な内容の他に、商品化したものを販売にどう結びつけるか、事業として採算がとれるところまでのつなぎをどうするかなどの、事業化支援にいたる幅広い質問が出され、内容の濃い意見交換が行われた。

  地域バイオ育成推進講座 in 旭川(10/2) 「遺伝子組換え生物と暮らし」 要旨報告

 70人以上の参加を得て開催された。地元の方々からは、旭川市でのバイオ関係の講演会の開催は、少ないので大いに勉強になったとの声を頂き、討論会も活発だった。
開会挨拶は、学術会議会員の丹保先生(放送大学学長)。今世紀は、バイオの時代。20世紀に人類が積み重ねてきた、廃棄物、大気汚染、水質汚濁などの人間による負の遺産を解決する科学技術としてのバイオの重要性について述べられた。以下に概要を報告する。

1.『暮らしのなかのバイオテクノロジー』
      北大院農 (NPO)HOBIA会長 冨田 房男氏
JISによれば、バイオテクノロジーとは、「生物またはその機能を利用または応用する技術」と定義されている。バイオテクノロジーは、人類が最初に利用した技術ともいえる。
科学技術の進歩があまりに速いため、専門家と非専門家の間に、知識や理解において大きなギャップが見られることは、非常に由々しきことである。特にバイオテクノロジーの成果、例えば、作物育種、動物育種への組換えDNA技術や卵移植の技術の応用、難分解化合物の分解による環境浄化の可能性、医薬分野では、希少タンパク質の大量生産や、再生医療への応用などが、あまりにも身近であるがゆえに、知識ギャップの問題は、きわめて大きな誤解や科学に対する不信感や反科学的な考え方を生み出す原因となっている。当事者の一人として残念に思っている。

2.『遺伝子組換え作物開発の背景と安全性確認への取組み』
 (NPO)日本国際生命科学協会(ILSI Japan)
バイオテクノロジー研究部会 橋本 昭栄氏
1994年米国で日持ちするトマトがFDAにより認可された。日本でも1996年に厚生省により4作物7系統の安全性が確認された。1996年の世界の遺伝子組換え作物の作付けは170万haであったが、2001年には5,260万haと増加した。日本の全耕地面積の10倍である。大豆やナタネは、主要産出国の過半の面積で遺伝子組換え作物となっている。遺伝子組換え食品の安全性についてはマスコミなどを通じて多くの情報が飛び交っている。しかし、安全性に対する懸念は叫ばれていても実際のデータについて触れる機会は非常に少ない。安全性のデータはボリュームもあり、使われている用語もかなり難しい。そのため専門家以外は、評論家かマスコミを通じてしか情報を入手していない。

<人類に不可欠な組換え作物>
遺伝子組換え食品の出てきた背景は、(1)人口の増加が著しいが、作物の栽培面積は増加の余地はない。(2)都市化、農地の表土の流出、砂漠化により優良な耕地は減少している。(3)特に日本は最大の食糧輸入国であり、最大の輸出国であるアメリカの穀物を輸入せざるを得ない。もし国内で生産するには今の休耕田も含めた農地の3倍以上必要であり、不可能。(4)農薬などによる環境汚染が進んでいる。(5)従来の品種改良(突然変異)による増産では時間がかかりすぎる。(6)従来の作物の持つ栄養や機能・毒性などの科学的な解明が進んできた。(7)バイオテクノロジーの発達により従来の品種改良の仕組みが分かってきた。(8)この仕組みを応用することで遺伝子組換え技術で、より確実な改良が可能になった。

<従来の農作物の危険性の認識>
私達が毎日食べている農作物は、人類が農耕を始めて以来ずっと品種改良を重ねてきたものである。これらの農作物の安全性は、長年の育種経験と食経験によって実証されている、しかし、科学的に検証・証明されたものではないことを認識すべきである。遺伝子組換え農作物が開発されて初めて、ヒトは「農作物の安全性をどのように評価するか」という課題に直面した。農作物は、さまざまな微量成分が含まれ、毒性成分も含まれている。現在食べている農作物も科学的分析によって『100%の安全』を証明することは難しい。遺伝子組換え農作物が安全かどうかを考える上で重要なのは、従来の育種法によって改良された農作物と、遺伝子組換え技術を用いて改良された農作物とを多角的見地から比較し、『同じように食べても安全と見なすことができるかどうか』を評価することである。

<組換え作物とは>
遺伝子組換え農作物には、品種改良の目的を達成するための遺伝子が新たに植物ゲノム中に組み込まれている。この挿入遺伝子によりタンパク質が産生されたり(除草剤耐性作物や害虫抵抗性作物の場合)、あるいは農作物がもともと持っている酵素の働きを抑制することによって(高オレイン酸大豆、日持ちトマトの場合)、目的とした特性を農作物に加えることができる。用いられる挿入遺伝子は、その由来と構造が明らかなもののみで、挿入遺伝子によって産生されるタンパク質の特性や機能も明確なものばかりである。

<安全性評価の実際>
安全性評価の第一段階では、分子生物学的検討および生物検定をおこない、目的とする遺伝子がきちんと農作物ゲノム中に挿入され、品種改良の目標が達成できたかを確認する。一つの組換え農作物を商品化するには、初めに多数の組換え体を作るが、それらの多くは温室・圃場における開発初期の評価試験の過程でふるい落とされる。温室や圃場試験では、遺伝子組換え農作物と従来の農作物の外観や生育特性を詳細に比較し、目的とする特性以外の違いが現れていないことが確認できた組換え体だけを、商品化の最終候補として選抜する。
続いて、選抜された組換え体について、その農作物に知られている主要および微量成分の分析をおこない、目的以外の成分の増減がおこっていないことを確認する。有害な成分が含まれることが分かっている場合には、これらの有害成分が増えていないことも証明する。分析は、環境要因を配慮し複数の圃場試験で得られたサンプルを用い、データは統計学的に処理される。体に良い成分を増やしたり、逆に悪い成分を減らした農作物の場合には、その栄養学的意義についても検討する。

<アレルギーの判定>
アレルギーの原因となるタンパク質は難消化性であったり、加熱に強かったり、その食品中の主要タンパク質であったり、特異的なアミノ酸配列の相同性がある等、その構造や特性にいくつかの共通した特色があることが分かってきた。そこで、新たに産生されたタンパク質を、既知の食物アレルゲンと比較して、類似点がないことを確かめる。急性毒性を持たないか、加熱によって変性するか、胃腸中の消化液で短時間に分解するか、既知の毒素とアミノ酸配列に相同性がないか等を確認する。さらに、念のためネズミを用いて急性経口毒性試験をおこなうこともある。

以上すべてを総合的に判断して、目的とする特性以外の違いが認められた場合には、その相違点に関して安全性評価試験をさらにおこなう。各国政府によって試験データが審査され、従来の育種法で改良された農作物と同じように食べても安全と見なすことができると判断されて初めて、栽培、食品、飼料への利用が可能となる。

3.『農業者からみた組換え作物』
(有)角田農園代表取締役 角田 誠二氏
演者は、北海道指導農業士であるとともに、地域の6戸の農家と新しい農業経営の創造をめざして農業生産法人ハッピーファームを設立し、バイオ、IT技術の活用等により生産性向上を図っている。耕作は、小麦、甜菜、馬鈴薯など合わせて80 ha以上。農業者の立場からの発言を頂いた。
農業者が、今後の農業を考え、新しい大豆品種を試作するのは、当然のことです。除草剤ラウンドアップを使って除草のできる作物は、農業者にとって画期的です。私の栽培した遺伝子組換え大豆は、厚生労働省が安全の確認を行い、農林水産省が栽培を許可しているもので、いわば日本国のお墨付きが付いている。このお墨付きに加え、今回の栽培の条件は、ラウンドアップの散布後、雑草が枯れたことを確認した後、大豆の花を咲かせることなく、すき込む(緑肥)計画でした。これなら、遺伝子組換え作物ではありますが、消費者の不安に対しても、地域に対する風評被害に対しても、問題はないと考え、栽培を決断しました。
日本は雨が多いので、雑草も多い。農業にとって、雑草との戦いは、昔も今も大変なことです。雑草によって生ずる被害への対策が、農業にとって重要な作業の一つです。
現在は、農作物の種類に応じて、異なった雑草への対策を行っています。除草剤の種類、散布量、散布時期など、いずれも細心の注意が必要です。一つでも間違うと作物の生育に被害が出たり、雑草を押さえられなかったりします。果てるともない雑草との戦いの日々を続けていると、ラウンドアップは魅力的です。
ラウンドアップレディ大豆を試作した経験を述べましょう。2002年5月20日、1 ha余りの面積に播種しました。6月5日、発芽が始まり、6月10日頃から雑草が目立ち始めた。7月中旬に入ると雑草がかなり大きくなり、一部では、生えてきた大豆が雑草に覆われるようになった。7月13日、除草剤を散布。試験的に、畑の一部では、適量の2.5倍量を散布した。一週間位で雑草の黄変が、進んできた。しかし、大豆の生育にほとんど影響はなかった。通常の除草剤では、除草剤を散布すると作物の生長も一時的に停滞する場合が多いのです。しかし、ラウンドアップでは、散布直後でも作物の生長は、旺盛で、良い手応えを感じました。2週間後、ほとんどの雑草は、枯れました。通常使われている除草剤では、枯れさせることができない雑草も枯れた。しかし唯一、スギナだけは再生した。適量の2.5倍を散布した区も大豆の生育には影響がなかった。これは、驚くべきことで通常の除草剤では、2.5倍も散布すると作物も枯れてしまう。7月23日、ロータリーハローで大豆をすき込んだ。ホクレン、北見農試、行政など多数が集まった。
もし、安全性に対する消費者の理解が得られ、他の作物でもラウンドアップ耐性が可能になれば、その利点は、(1) 大幅なコスト引き下げ。(2) 除草剤による土壌の劣化の緩和、(3) 作業体制の変化、(4) 除草剤による環境負荷の改善、が可能となる。
今回、試験栽培したラウンドアップ耐性作物は、今後の北海道農業にとり、大変魅力的な技術であると実感し、手応えを感じました。このような新技術の試験研究は、今後とも是非とも続けるべきだと思います。

4.『消費者から見た組換え作物』
日本生活協同組合連合会
               安全政策推進室 渡邉 秀一氏
演者は、商品検査、品質管理を経て、1989年より安全政策推進室、現在、室長として農薬、遺伝子組換え食品等を担当しておられる。
<わが国の社会システムの問題点>
リスク評価やリスク管理の軽視の姿勢は、どの分野にもあり、消費者保護の軽視へともつながっている。政策決定過程が不透明なことや、縦割り行政の弊害のため、専門家の意見を軽視したり、情報公開の不徹底が茶飯事である。その結果、消費者の行政不信と理解不足へとつながっている。さらに法律と制度の不備をも続ける結果を導いている。一方、消費者も「シロ」か「クロ」かの二分論に終始するのでは発展性がない。リスク分析手法を導入して、リスク評価に基づくリスク管理そして、非専門家も入れたリスクコミュニケーションが必要である。これらの問題点を解きほぐし、安全・安心の社会システムの構築が必要である。


<遺伝子組換え食品が消費者に理解されるには>
リスクコミュニケーションが豊かに行われることが重要で、生活者の感覚から出される疑問や質問に丁寧に答える仕組みを築くこと。関係者どうしが、パートナーシップを持って信頼関係を築き上げること。その範囲は広く、学者、専門家、GMO開発企業、種苗会社、生産農家、食品事業者、消費者へとつながるチェーンとなる。問題点が指摘されたらすぐ意見交換することが必要だ。分かっていることと、分からないことを整理して、情報を一人歩きさせないことが重要だ。このような視点を持って社会的な食の安全を確保する仕組みを整備することに協力したい。

  地域バイオ育成推進講座(札幌)開催要旨(H14年度)

 地域バイオ育成推進講座については、国・北海道および道内各地域のバイオ産業振興団体が連携し、実行委員会方式により平成6年度から継続して開催しているもので、今年度も札幌市、旭川市、小樽市で開催されます。このうち、去る7月24日(水)に札幌で開催された講座について以下のとおり報告いたします。
【テーマ】
記念セミナー・NPO法人化に向けて
「暮らしと健康とバイオテクノロジー」
 〜NPO、ベンチャー、環境における北海道の大いなる可能性を探る〜
【開催場所】
 札幌市中央区北4条西1丁目 共済ビル
【開催日時】
 平成14年7月24日(水)14:00〜17:00
【内容】
 HOBIAのNPO法人化へ向け、新たなスタートとなる今年、先にNPO法人化されました東京の「くらしとバイオプラザ21」について、活動状況をご報告いただくとともに、関西地区で活発な活動を続けている近畿バイオインダストリー振興会議から地域の取り組みについてご紹介いただきました。続いて、北大の西村孝司教授から体内免疫バランスとアレルギーなどの免疫病に関する研究発表をいただき、会場からは、多くの質問が出されるなど大変熱心な討議となりました。
【講演1】
「バイオ系NPO法人の活動と新NPO法人『くらしとバイオプラザ21』」
(財)バイオインダストリー協会 産業と社会部長 依田次平 氏
【バイオテクノロジーのパブリックアクセプタンス】
 食品の安全性を科学的に説明するということは誰でも考えることだが、前提がないとなかなか難しい。そこが逆に言えば、バイオテクノロジーに反対する人たちの視点となる。それを指摘された場合、科学的に答えることは実質的に不可能に近いと考えている。
 バイオテクノロジーを発展させるため、パブリックアクセプタンスという国民の理解を得る活動に10年間携わってきたが、その中で、これは科学的問題ではなく、社会的な問題であるという認識を強く持った。社会的問題には、その背景に思想・立場・感情が存在する。ゆえにアンチバイオの人々のグループなどもできてくる。
 10年間の活動を通じて、NPO、NGOなどのグループ的な活動が一番影響力を持ち得るのではないかという結論に達した。NPO法人「くらしとバイオプラザ21」は、約1年半の準備期間を経て本年7月1日登記を完了した。バイオインダストリー協会とは完全に独立した組織である。
【NGOとNPO】
 国際会議の場ではかなり前からNGOの参加を諌める例が多くなっている。日本では専門家による委員会が開かれる際などに、メンバーに消費者やジャーナリストなど各分野の代表を入れることが増えている。
 昨年、2005年開催予定の名古屋万博の開催準備に当たって、環境への配慮について議論を呼んだ。これに対しパリの万博本部は、最終的な判断をNGOであるWWF(World Wide Fund for Nature:世界自然保護基金)にゆだねた。このように、NGOが国際的な決定権をもつような場合にも使われるようになった。
 日本でも、自社の環境政策をPRするときに、NPOに調査を依頼する場合が増えている。企業にとっては自前で調査するよりもはるかに一般の人たちに対して信頼が高まる。このようにNPOは政治的な意志決定から企業と消費者との仲立ちまでするような新しい組織として段々認知されてきている。また、能力はもっているが、会社に縛られずに自由に生きたいという若いフリーターが増えていて、NPOがその受け皿になっている。
 日本では、特定非営利活動促進法によってNPO法人が位置づけられている。任意団体は、情報公開をする必要はないがNPO法人は、収支決算報告等の情報公開の義務がある一方、信頼度や評価は高まってくる。また、政府や自治体が意志決定を行う場合にNPO法人の肩書きで参加することも増えてくると考える。
 NPO法人としては、現在12の活動が諌められている。収益事業を行っても、その利益を公益性のある事業に使うのであれば問題はない。
 「くらしとバイオプラザ21」では、多岐にわたるバイオ関係の質問に対して対応できる機関を紹介するポータル(港)サイトとしての役割を果たしていきたい。
【講演2】
「近畿バイオインダストリー振興会嵩の活動と関西の現状〜いま元気な関西バイオ〜」
   近畿バイオインダストリー振興会議 事務局長 遠山伸次 氏
【近畿バイオインダストリー振興会議】
 近幾バイオインダストリー振興会議は、1985年3月に、当時の大阪大学総長、大阪通商産業局長、(財)大阪科学技術センター会長が発起人となり、山村雄一大阪大学総長を初代の委員長として発足した。現在、NPO法人設立認証申請中で、年内には認証の見込みである。
 近畿経済産業局のご協力を非常に得ており、局で実施している産業クラスター計画の中で近畿バイオ関連産業プロジェクトの中核推進機関となっている。また、(財)大阪科学技術センターとは、バイオの分野で連携し、経済産業省の地域新生コンソーシアムに取り組んでいる。
 取り組みの重点分野は、「ヒト・環境・食」の3つ、企業会員は現在89社で、年内には100社を超える見込み。学界会員は23、官界会員が33で、外国のバイオ19機関と協力関係にある。
【最近の事業】
 ここ3年ほど新たな事業として関西のバイオのシーズの産業化に取り組んでいる。これは近畿バイオ振興会議が、1999年に通商産業省の委託事業として、「近畿地域におけるバイオテクノロジー産業化基盤技術及び産業化促進のための課題調査」を行ったことがきっかけとなっている。この調査により近畿地域のバイオ関連のシーズ約600件、バイオの研究者約500名を集めることができた。この調査で、近畿のバイオテクノロジーの事業化ができない理由として、シーズとニーズのマッチングの場、インキュべ−ション施設、スタートアップ資金の3つが不足していることがわかったため、それを解決するために、専属のコーディネート会議や技術シーズの公開会などを開くようになった。技術シーズ公開会は、年に2回、これまで6回開催し、発表件数は81件、延べ参加者658名である。また関心の高かったシーズを中心にフォローアップ勉強会も開催している。
また、プロジェクトメイクコーディネート事業として地域新生コンソーシアムに応募する際に相談に乗ったり、研究プロジェクトのフォーメーションづくりを支援したりしている。
 バイオビジネスコンペJARINは、昨年度、関西の産官学が一体となって立ち上げたものである。最優秀賞は500万円で、これまで2回開催されたが年々優れた提案がされている。
 昨年は、「バイオフォーラム2001 0SAKA」に特別協力し、「バイオ夢舞台」を主題に「ヒト・環境・食」に関する3つの分野についてシンポジウムとセミナーを行った。このフォーラムをきっかけに日本工業新聞からバイオベンチャーを表彰する賞をつくろうという提案があり、今年の3月6日、第1回の表彰式を行った。こうして近畿バイオのバイオシーズ産業化のプロセスとして、技術シーズ公開会→バイオビジネスコンペJAPAN→バイオベンチャー大賞という流れができている。
 海外のバイオ機関との交流事業としては、JETROの平成13年度ミニLocal to Local産業交流事業を受託し、今年3月にバイオミッションを派遣している。
【今後の展開】
 関西では今、関西圏におけるライフサイエンス国際拠点形成ということで、大阪北部地域における拠点形成、神戸地域における拠点形成、それらを結ぶバイオ情報ハイウェイという3つの大きな取り組みが行われている。
 現在、近畿バイオ振興会議は、近畿経済産業局が推進している近畿産業クラスター計画「近畿バイオ関連産業プロジェクト」の中核推進機関となっており、近畿圏のバイオベンチャーマップの作成などを計画している。今後も各事業を充実させて、近畿地域バイオ関連産業クラスター形成のために活動して参りたい。
質問:事業を行う際の受け皿はどこがなっているのか。
回答:近畿バイオ振興会議は任意団体だが、JETROの事業などは受託できる。クラスター計画などは(財)大阪科学技術センターが受けて、運営を担当している。事業が成功しているので会員は増えている。会員を増やすために営業は必要。
質問:TLOとの関係はどうなっているのか。
回答:関西TLO、TLO兵庫、大阪TLOがあるが、バイオで成功している例はないようで、まだ関係は薄い。
【諦演3】
「『大学発事業創出実用化研究開発事業:
テーラーメイド細胞治療の開発研究』を継起とした地域密着型医療バイオ産業ビジネスクラスターの構築」
     北海道大学遺伝子病制御研究所 教授 西村孝司 氏
【トランスレーショナルリサーチの必要性】
 免疫の研究を利用したガンの治療法を開発したいと思っていたが、現在の治験の体制に問題を感じている。臨床研究としてのパイロット・スタディーが、治験のデータとして使うことができないと言うジレンマがある。ゲノムを発見して、実験治療で良い結果が出た場合、すぐにそのデータが治験データとして使えれば、企業の製品化も加速することになる。今までの薬の開発スキームでは、前臨床試験の段階から治験を終了するまでに10〜20年がかかってきたわけである。国もようやくこれに気づき、トランスレーショナルリサーチと言って、基礎の研究を何とか臨床に繋げようとしている。国が考えているトランスレーショナルリサーチは、非常に狭義な意味で使われているが、例えば北海道の海産物や農産物から有用成分を抽出したものを動物試験し、臨床試験に掛けて、また臨床の患者さんのケアーをすることも含めて、全体を広義に捉えることが必要だ。北海道のバイオ産業に関して、トランスレーショナルリサーチを目指した施設などを大学の中などに設置していくことが必要だ。
【免疫バランスの研究】
 まず、免疫学について簡単な説明をする。免疫とは、バイ菌が入ってきたら病気にならないように、それを拒絶して2度と同じバイ菌には感染しないにようにする体の仕組みである。異物が進入したら、樹状細胞が異物を食べて、その異物の断片の情報をT細胞というリンパ球に与えて、特異的なリンパ球が増殖をしてクローンの拡大を図る。そこには2つの仕組みがあり、侵入したバイ菌に特異的なリセプターを持った細胞が体当たり式に感染した細胞を殺す物質を放出する型の免疫(細胞性免疫、Th1細胞関与)と、皆さんがよくご存じの、B細胞という免疫細胞が体液に可溶性の抗体を溶け出して、バイ菌を殺す形の免疫(体液性免疫、Th2細胞関与)である。ヘルパーT細胞が生体防御反応の中枢で、このヘルパーT細胞には2つのサブセットがあることが分かってきた。抗ウイルス作用を持つIF−γ産性細胞であるTh1という細胞と、IL−4などを作るようなTh2という細胞である。非自己に対する免疫応答の制御メカニズムは、全てのThl,Th2バランスによる。Th1が強いと細胞性免疫が強くなり、ウイルスによる病気やガンになりにくくなる。Th2が強いと抗体生産を導くような体液性性免疫が強くなるが、一方ではアレルギーになりやすくなる。このように、免疫学は昔に比べると進かに理解しやすくなってきた。Th1、Th2のバランスを人為的に制御して、ガンを治したり、感染症を治したりできるわけである。
【エコロジカルバイオとエデュケーショナルバイオ】
 日本ではアレルギーの人口が上昇しているが、こうしたアレルギー人口の増加に伴い、小学生のツベルクリン反応が減ってきている。ツベルクリン反応は、純粋にTh1によって起こる反応である。環境汚染に伴い、Thl,Th2の免疫バランスが、Th2に偏ってきているからである。こうした問題に対する対策が、エコロジカルバイオの研究につながる。私の研究では、ネズミを一晩チューブに拘束すると、免疫は見事に消失する。また、同時にIF−γというThlのサイトカインも消失する。IL−2を含むTh2の系統は、ストレスに対して抵抗性がある。アメリカの研究では、医学生の免疫が試験前には急激に下がると言うことが分かっており、ストレスが免疫をTh2型に傾かせることが分かる。こうしたことを理解しながら、啓発教育をすることがエデュケーショナルバイオにつながる。
【インダストリアルバイオ】
 免疫バランスの研究は、北海道の産物からユニークな材料や素材を作り出す、つまりインダストリアルバイオに対する多大な効果がある。イムノポテンシエーターとして注目されながら、医薬品としての作用が分からなかったため使われていない物質が沢山あったが、Th1、Th2のバランスにどのように関与しているかを明らかにすることで、こうした物質の医薬品としての再評価が可能になる。トランスレーショナルリサーチによりこうした評価を進めることにより、今まで10年かかっていた試験が3〜5年で済ませることも可能になる。
【メディカルバイオ】
 テーラメイド治療につながるメディカルバイオについて説明する。キラー細胞を活性化することができれば、ガンを治療することができる。このことは、免疫治療に懐疑的であった研究者も、認めるところとなっている。しかし、キラー細胞のみでは効果は小さく、ヘルパーT細胞の関与があって初めて異物に対する免疫機能が働く。Th1、Th2バランスの概念を利用すると、Th1の誘導をすることが細胞性免疫でガン治療や再発防止に有効である。今回初めて、白血病患者から白血病に特異的なThl細胞を誘導する系を東レと共に開発した。東海大学時代にヘルパーT細胞の大量培養技術を開発したが、これと組み合わせると現在研究している遺伝子治療に役に立つ。ベンチャーが細胞を加工して、大量培養して、それを配布するという行為は、現在の薬事法では認められていないが、厚生労働省に相談したところ、今国会でこのシステムを認めてもらえた。早ければ来年4月から医師が外部に細胞の加工・培養を委託することが可能になり、委託を受けるベンチャー・ビジネスが実現できることになる。Th1、Th2バランスによるテーラーメイドセラピーが可能になる。次は、Thl、Th2免疫バランスを診断するDNAチップの開発が必要だが、マウス用では目処が付いてきた。将来的には、免疫の方を決める簡便な診断法が必要になる。
【最後に】
 学と産の協力関係ができてきたので、これからは官の積極的な協力を得たい。地域に密着した医療システムを構築するため、大学の中だけでなく、地域の病院なども巻き込んで、ベンチャーを立ち上げた。これから建設される研究施設などを呼び水として、関連産業も含んだトランスレーショナルリサーチを中心とした産業を立ち上げていきたい。こうしたシステムが、新たな産業クラスターの形成につながると思う。北海道こうしたことの実現に適した土地で、こうした協力関係は東京よりも作りやすい。海外の企業からも、特許の使用のアプローチや研究協力を求めているので、北海道が医療研究の中心地となるのも夢ではない。皆様にも、今後ともご協力いただきたい。
質問:構想を実現するために、臨床医で協力者はいるのか?臨床効果を診るために、DNAの診断は人間ではいつ頃できるのか?
回答:北大の病院からの参加者がいる。最低3例程度の例を積み上げたいが、慎重に事を進めて行きたい。免疫療法が効く人と効かない人がいるので、免疫体質を測るツールも開発したい。マウスと人間では遺伝子の発現が随分違うので、早く人のデータを揃えたい。
質問:食品に関する臨床データでも、動物の種による違いがあるが、最終的には人間で調べるべきだと思う。農業や食品と医療を結び付けると良いのではと思う。
回答:その通りだ。食品により免疫バランスが変化することがあると思うので、いろいろな研究者が協力すべきだ。食品と医療とを結び付けるのは、良い考えだ。ヨーグルトの乳酸菌などは、免疫に影響を与えうることが明らかだ。
質問:マウスの場合と人間の場合で免疫バランスを崩す物質の相関性は、分かっているのだろうか?
回答:一部に臨床のフェイズT試験に入ったものがあるが、まだ結果はでていない。マウスは純系で研究ができるが、人では反応が微妙になるので、特異な反応を示す例を集めたい。
意見:経済同友会の戸田氏もバイオを重視しているが、今回は医学と他の領域を統合したすばらしい成果を知ることができた。是非ともがんばってほしい。